JRツアーズ555系「シャングリ・ラ」
■序
555系はJRツアーズのフラッグシップトレインとして、また国鉄時代から運用してきた82系客車の置き換えを目的として企画・製造しました。82系は「走るホテル」をコンセプトに、接客設備はホテルのそれに匹敵するものとなっていましたが、乗務員手配の問題や運用効率の悪さから、次第にもて余すようになってきました。555系は82系とコンセプトは同じ「クルーズトレイン」ですが、「和」の時代から変化した旅行業態に対応するため、形態・仕様は大きく変化しています。
■基本構造
555系が82系と大きく変わった点は、客車列車から電車列車になった点です。客車列車には利点もそれなりにありますが、JRツアーズで82系のためだけに機関士を養成するコスト(もしくはJR貨物に委託する費用)の問題や、都心部での取り回しを考えるとトータルで電車が有利と判断しました。電車列車では非電化区間への入線ができませんが、この場合に限りJR貨物よりEG装備のDE10形式を乗務員込みでレンタルすることになっています。
編成は7両で、先頭からクロネ555+モロネ555+モロネ554+サシ555+モロネ555+モロネ554+クロネ554となっており、機器を各車両に分散装備している関係でこの7両が最低組成編成となります。「和」は12両編成ですから実に5両(機関車入れたら6両)も短くなったわけですが、これはJRツアーズが路線保有事業者に支払う線路使用料金が通過する車両数で決定するため、設備を集約してできるだけ短編成にする必要があるためです。後述しますが客室設備の多くがメゾネットタイプになっているのも、占有容積を維持しつつ1人当たりの専有面積を小さくして定員を稼ぎ、編成を短くしたための産物なのです。
■車内設備
接客設備はすべて2人用個室で20部屋。定員は40名です。うちクロネ555・554およびモロネ555はメゾネットタイプ、モロネ554は平屋のグランドタイプとなっています。室内はマボガニーで手堅くまとめた感はありますが、グランドタイプは外国人旅行者の方に日本の雰囲気を味わってもらおうということで、隠し味程度に和の香りを入れています。たとえば室内のテーブルは日光杉の御神木を屏風継ぎにしたものを採用したり、車体断面を利用して二重格子天井をイメージした天井のつくりとなっています。そんな和風の空間に絨毯とベッドはいかがなものかという考え方がないわけではありませんが、そこは日本文化をどうとらえるかの問題だと考えています。JRツアーズは日常の中にお仕着せではない日本を組み込むことを選択しました。
82系譲りの特徴としては、各車両にコモンスペースが設置してあることが挙げられます。旅程にもよりますが「シャングリ・ラ」のツアーは3泊以上にわたるケースもあり、気分転換を交流を兼ねたコモンスペースは必要であるという考えは82系から変わっていません。また、基本は禁煙ですが編成中2か所に喫煙スペースを設け、長旅に対する喫煙者への配慮としています。クロネ554・555が前面展望になっているのも82系からの伝統で、こちらもフリースペースとなっています。
▲室内の様子。座席は固定ですがソファタイプのゆったりしたもので座席幅は1,900ミリ。その気になればこのソファでも眠れます。なお、上部窓のカーテンは電動式。
▲メゾネットタイプの部屋の場合、ベッドは2回にあります。ベッドの長さは1,900ミリ、幅は1,200ミリのゆったりサイズ。各個室の壁はマボガニーで整え、カジュアルなリビングをイメージしています。
サシ555は定員20名の食堂車。基本的に車内での調理はせず、ケータリングサービスから最寄りの貨物駅で食事を積み込む方法をとっています。これは団体専用列車ゆえに営業運転中の搬入も容易なこと、厨房を設けるスペースがないことなどが理由です。したがって既定の食事時間以外はバーラウンジとなり、飲み物と調理不要な軽食を提供するスペースとなります。
サシ555の階下は業務用室。「シャングリ・ラ」の乗務員は運転士2名、車掌1名、アテンダント7名、食堂スタッフ4名の14名が乗り込みます。彼らの仮眠や身支度を整えるためのスペースはすべてサシ555の階下に集約しており、8名分の簡易寝台とシャワールームなどが組み込まれています。
▲82系客車「和」と並んだ555系「シャングリ・ラ」。82系のいいところは承継しつつ、団体旅行も個室の時代であることを踏まえた車内設備とした、JRツアーズのフラッグシップトレインです。
555系は現在7両1編成のみ。今後も増備する予定はありませんが、555系そのものはこの不景気の中でも稼働率は高く、JRツアーズのフラッグシップトレインという役割のほか、それなりに「稼げる」列車として全国を駆け回っています。
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