JRツアーズ20周年企画(7)
エースになったワンポイントリリーフ
(よりぬきわたりどり2007年8月号)
 「人間万事塞翁が馬」ということわざがありますが、本当に世の中動転ぶかわからないものです。
 キハ76・77形式は1988年に製造計画がスタートしたディーゼルカーですが、このときすでに振子式のディーゼルカー、キハ171形式の企画が進んでおり、キハ76・77形式はキハ171形式までの「つなぎ」として考えられていました。1987年に国鉄が分割・民営化された際に、電車は485系や475系をあてがわれたんですが、ディーゼルのほうはなぜかキハ58形式のほかにキハ35形式なんかをあてがわれまして、うちは団体専用外車なのにキハ35形式なんかどう使うんだってことで、とりあえずエンジンや台車、変速器を流用して団体用にふさわしい車両を作ることにしました。特に北海道支社と四国支社は気動車が必要なので、キハ171形式の開発を待っている余裕がありませんでした。キハ58形式ならともかく、団体のお客様にキハ35形式に乗せるのはどうかと思いますし。

▲JRツアーズでは使い道がなかったキハ35形式を生まれ変わらせて作ったのがキハ76・77形式。冷房は廃車になったサロ111形などから流用したAU13。発電機はキハ81形式の4KVなど、さまざまな余剰品を組み合わせています。

 そんなわけでエンジンはDMH17H、変速機はTC-2、台車はDT22というキハ35形式の流用で始まりました。キハ76形式が1エンジン車、キハ77形式が2エンジン車で通常はこの2両が1組で運用するようになっています。ファイナルも2.94だったかな、そんなもんしかないので最高速度は100キロ。無改造で130キロ出してた485系「とりのうた」と比べるとあまりにもアンダーパワーですがそこは「つなぎ」なんで割り切りました。
 正面もキハ76形式は多少特急らしさを演出した非貫通の大きな窓となっていますが、中間に入ることを考慮して貫通型の正面としたキハ77形式は国鉄105系のスタイリングをそのまま流用したため、おおよそ華やかさからは遠いものになってしまいました。本来キハ76+キハ77+キハ77+キハ76の4両編成を基準に考えていて、キハ77形式の運転台「簡易運転台」程度に考えていたんですね。景気のいい時代でしたからまさか2両編成で走り回るなんて考えてもいなかったんですよ。貫通型にするにしても585系「ウルトラバイオレット」みたいなやり方もあったわけで、この辺はもう少し考えればよかったなと反省してます。

▲10年程度の使用を前提としたデザインのため、貫通型運転台は105系のデザインを流用しています。

 とはいえ車体の構造を簡素化して軽量化を計ることで、多少の性能向上は考えていました。車体幅が2,744ミリで車高が3,680ミリに抑えられているのも、ひとえに軽量化のため。本来ならステンレス鋼あたりで軽量化を計るのが王道といえますが、つなぎの車両にそんなお金はかけられません。車幅が狭いのでやむを得ず座席は2-1アブレストとなりましたが当時は景気がよかったんでね、「お客様が多数ご乗車するなら増結すればいい」という考えでした。線路使用料を節約するために7両に詰めた555系なんかよりもよっぽど贅沢な考え方ですよね。そしてささやかながら、定員外のスペースとして運転台直後にハイデックのサルーンを用意しました。最高速度100キロで所要時間がかかる列車ですからね、気分転換のスペースは必要だなということで設けました。
 サルーンに関してはちょっと失敗したなと思うところがありまして、サルーンには12人分の座席を用意したんですが、この座席がリクライニングこそしないもののなかなかすわり心地がよくて、旅行中ずっとサルーンで過ごされる方が多く、「サルーンがいつまでたっても空かない」とお叱りを受けることがしばしばありました。居住性の見切りというのは実に難しいものですね。
 でも、通常の座席だって決して悪いものではないんですけどね。シートピッチは1,000ミリ。窓も大きく、床面よりも200ミリ高く座席を設置しているので展望も抜群です。少なくとも485系「とりのうた」の座席モードよりは断然快適だと思いますよ。

▲座席は2-1アブレスト。乗り心地はともかく、すわり心地は585系「ウルトラバイオレット」と比較しても勝るとも劣りません。


 で、あまり期待されずに登場したキハ76・77形式ですが実によく稼いでくれました。バブル絶頂期でもあったので連日日本中を駆け巡ってましたね。今では信じられませんが4両編成貸切で千歳空港?根室間の「カニ食べよう!」号なんて企画商品が飛ぶように売れました。一方で本命のキハ171形式は開発が遅延し営業運転開始が1992年になり、くわえて景気後退と車両価格の高騰からキハ171形式は四国に配置されただけで製造打ち切り、振子機構を簡略化したキハ173形式が量産されるまでキハ76・77形式がまた「中継ぎ」を勤めることになりました。結局キハ173形式も北海道に配属されたら製造を打ち切られ、本州エリアはこのままキハ76・77形式を継続使用することが決まりました。本州エリアでは主要な路線はあらかた電化し、非電化区間への需要もかつてほどはなくなったのでキハ76・77形式で十分ということになったんですね。
 ほんと、世の中動転ぶかなんてわからないものです。

 
 

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