JRツアーズキハ171形式「菫色」



 JRツアーズ発足当時、承継された気動車の陣容はおおよそ団体用には向かないキハ35形式やキハ20形式などばかりでした。全国規模で独自の路線を持たないがゆえに、各鉄道管理局や清算事業団から「わけあり品」を押し付けられたという噂もありますが、それはともかくとしてキハ58形式やキハ22形式はともかく、これをどう団体用に使えというのか意図がわからないキハ35形式が28両はどうすればいいものかと途方にくれてしまいました。
 とにもかくにもこの陣容では話にならないので、JRツアーズは団体用新型気動車の開発に着手しました。とりあえず繋ぎの団体用としてキハ76・77形式をキハ35形式から改造する一方で、高速運転を志向した新型気動車キハ171形式を1990年を目処に開発することとなりました。
 
基本性能
 キハ171形式は、旅行商品の柔軟性を高める観点から高速化が要求されました。最高速度は時速130キロ、振り子式を採用して半径600メートル以上のカーブは速度制限なしで走れる走破性を持った車両というコンセプトがまとまりました。
 編成はキハ171+キハ170+キハ171ー100の3連を基本とし、必要に応じてキハ171やキハ170を増結するシステムとなっています。電源は大馬力エンジンから直接取り出す方式を採用。トイレはキハ171に装備。キハ170にはフリースペースの「プレミアムサルーン」があります。
 走行用エンジンはコマツ製6気筒380馬力(DMF11HZ)エンジンを各車2台搭載。これをTCAN22トルクコンバータで駆動します。重心を下げるため車輪径は810ミリ(計画では762ミリという案もあったそうです)、ファイナルは2.05と低めですが、多段クラッチと2,200rpmの高回転でこれをカバーしています。
 変速段は起動から時速30キロ程度で終了、そこから先は直結1で55キロ、直結2で85キロまでひっぱり、直結最終段で130キロまで回します。この速度選定は勾配の多い四国の路線で、ターゲットとする速度域(25パーミル勾配で直結3段/90キロ)を出すために選ばれました。
 振り子機構は北海道での使用を考慮してベアリング構造を採用。この部分の開発がたいへん難しく、実戦投入が遅れた要因でもあります。寒冷地仕様など不要な中国・四国営業所では開発遅延に対する恨み節が聞かれましたが、全国規模で車両形式を増やしたくないという背景から、やむを得ない措置でした。傾斜角は5度で本則+30キロでの走行が可能となり、これによって所要時間を稼ぎ、回遊性の向上や滞在時間の延長を図ることができます。

▲低重心構造を維持するために車高は3,680ミリに抑えられています。それゆえにお座敷構造にはできない(お座敷にする際天井高さ1,800ミリを確保できない)という弊害が生まれました。

 車体は低重心構造を徹底し、車高は3680ミリに抑えられています。屋上機器は薄型のエアコンのみ。当初はこれすら床上もしくは床下装備を検討していましたが、2エンジン車ゆえに床下は満杯。床上も水タンクや便・洗などでいっぱいいっぱいで、これ以上床上に機器を装備すると座席定員の減少が懸念されたため、軽量のエアコンを屋上装備としています。ボディもステンレスとして軽量化。座席も可能な限り軽量化を指向しています。

転がす分にはいいクルマなんだけどね
ご乗客にもそれなりに好評です。多少やかましいのがネックですが、団体用ならそうマイナスではありません
でも、結局四国と北海道に投入されただけで終わっちゃいましたね
ベリーエクスペンシブ! マニーイーターデース!
ベアリングも小径車輪もエンジンもみんな特注ですからね
壊れても部品が特注で、設計もデリケートなのがね……特に爪クラッチの部分がJRツアーズの過酷な走りには向いてないというか
それは運転士の使い方の問題では……
運転士の使い方はともかく、JRツアーズの車両ではいちばん稼働率が悪いですね
パーツがスペシャルだとどうしても稼働率が下がってしまうのは避けられないんですか?
はい。高価なパーツを在庫しておくのは税制上も不利ですし、ストックヤードにも限りがありますのでおのずとパーツの在庫は絞られます。そして在庫がないパーツが死んだ場合、パーツが届くまでの時間仮名がいのがスペシャルパーツの欠点です
稼がないパーツはクリミナルデース!
でも惜しいわよねえ。走れば無敵なんだけど……
なにと戦ってるんですか…
 運転台も重心が高くなるデメリットを飲んで高運転台構造としています。これは運転台が低いと事故の際に乗務員保護が難しい点、長時間運転の場合の疲労度が高運転台に比べ高いことがあげられます。キハ76形式などはまだ時速100キロで2時間程度の運転なので許容範囲ですが、キハ171形式は時速130キロで4時間といった運行も想定されており、疲労軽減は重要な課題でした。
 客室は2ー2アブレスト、シートピッチ980ミリのリクライニングシートで、車高が低いためお座敷には転換できず、すべてがSタイプとなっています。代わりにキハ170形の客室1/3をサロンルーム「プレミアムサルーン」としており、足の長い団体運用では気分転換用のフリースペースとして活用できるようになっています。
 キハ171形式は四国および北海道に今後集中投入し、まずはキハ58形式を淘汰したのち、順次キハ76・77形式を置き換える予定です。

▲キハ170形式の車端部三分の一はフリースペースの「プレミアムサルーン」となっています。比較的長時間の乗車が見込まれるJRツアーズでは、旅客が気分転換できる設備をたいへん重要視しています。


▲車内は標準的な2-2アブレスト。座席は軽量化のためキハ76・77形式に比べ簡素なものになっています。
 

補足
 
 JRツアーズ期待のエースとして登場したキハ171形式ですが、制作費が割高で部品も特注品のかたまりのため維持コストが高く、四国用と北海道用あわせて3連21編成を製造した時点で打ちきり。その後は振り子機能を省略し、汎用部品を使用したキハ173形式に製造が移っています。もっとも景気低迷の波を受けキハ173形式の量産ペースは緩やかで、あまり所要時間にシビアではない関東・東北地区の団体輸送には相変わらずキハ76・77形式が幅を利かせているのが現状です。 
 
 

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