キハ110形式8000番台〈ワンダートリップ〉 ■はじめに JRツアーズは団体旅行を専門とした旅客鉄道会社ですが、「団体」の定義はかなり拡大解釈してさまざまな営業をかけていました。たとえばあまり採算のよくないローカル線の代行輸送などはその際たるものでしょう。 ローカル線でもラッシュ時はそれなりに混雑するところがありますが、そのためだけにラッシュ用の車両を用意するのは効率が悪い。 そこでJRツアーズが車両をレンタルし、JR旅客会社主催の「通勤客用の団体列車」を仕立てるわけです。そしてラッシュ輸送が終わると、今度はJRツアーズ独自の団体列車として運行するという商品を開発し、現在はキハ110形式8000番台がその重責を担っています。 ■基本構造/走行装置 基本設計はJR東日本殿のキハ110形式をベース(というより、そのまま)とした車両で、外部塗装をJRツアーズオリジナルにしているほか、インテリアを団体旅行に特化した形としているのが特徴です。 走行システムはキハ110に準じており、エンジンはコマツ製SA6D125-H(308kw/2,000rpm)でキハ110形式と同様です。定員乗車が原則のJRツアーズにおいて308kwのエンジンは明らかにオーバースペックですが、これは前述の通り、ラッシュ時の通勤輸送というシチュエーションがキハ110形式には発生するためです。200%定員時に2.2km/h/sの加速性能を出すためには、このくらいのエンジン出力が必要なのです。 トルクコンバータは変速1段、直結2段のTACN22を採用しています。JR東日本キハ110形式は直結段が1段しかないのですが、JRツアーズの場合ターゲット速度を2段階(65km/h・100km/h)必要としたため、トルクコンバータは直結2段のタイプを採用しています。 ファイナルは直結1が4.49、直結2が2.74としており、最高速度は100km/hと設定しています。JRツアーズの車両にしては高速性能が物足りませんが、もともとキハ110形式の想定する運行距離が50〜100kmで、大幹線をシャカリキに走るようなセッティングの必要性を認めないためです。 そのかわりキハ110形式の運行が想定される路線では、25‰上において全負荷状態で65km/hを保証するなど、中速域のトルクには細心の注意を払ったセッティングとなっています。中速トルクを太らせた結果加速性能の向上にも寄与しており、ありあまるエンジンパワーを投入することで変速段での平均加速力は2.2km/h/sと高くなっています。とはいえ、ファイナルがそれなりに低速側に振っているのであまり長く変速段を使うことはできません。そのためたとえば45km/hくらいの速度で延々と上り勾配を走るといったシチュエーションはあまり得意ではないと思われます。 キハ110形式8000番台はJR東日本キハ110形式の初期型をベースとしているため、側扉はプラグドア、スカートはパイプフレームとなっています。 設備面では、東北・上越地区での運用を想定し、耐寒・耐雪構造としています。ただし軽量化のため酷寒地対応とはしていないため、運用の北限は青森エリアまでとしています。 冷房は機関直結式のため、フルに冷房をかけるとエンジンパワーを30馬力ほど持っていかれてしまいます。それゆえの308kwではありますが、満員状態でのマイナス30馬力はたいへん厳しいため、ラッシュ時は力行中のみ冷房を殺して走ることもあります。 ブレーキはMBSA。これに加え排気ブレーキも装備しているため、キハ76=77形式に比べ応答性は向上しています。できうる限り電車系列と同じ感覚で運転できるようにアレンジされているのが特徴です。CCSおよびブレーキ系統をデジタル化したため、連結器も電連つき密着連結器として、分割・併合を簡易化。専門の係員がいない駅でも、乗務員2名によって併合を可能としています。 なお、信号設備はATS-SとAST-Pを標準装備として、ATC/D-ATCについてはオミットしています。 運用はキハ110形式を背中合わせにした2両つなぎが基本。最近の遠足輸送だと長くてもせいぜい150席の3両がいいところです。 ■車内設備/運用 JRツアーズでは団体輸送がメインとなるため、キハ110形式といえど車内はオールクロスシートとなっています。座席はシートピッチ1,500mm幅でボックスシートを7列並べた56席構成。車端部はトイレとラッシュ時用の立席スペースとしています。団体輸送時はこのスペースを弁当などの置き場にすることもありますが、トイレの前に弁当をおくのもいかがなものかというところもないわけではありません。 座席はランバー部はJR東日本キハ110形式と共通。一方で座面はでん部が沈むよう若干形状を変えたほか、奥行きを500mmとしてかけ心地を向上しています。なお、座面高さは430mmとこちらもJR東日本車と同じです。ただし、JR東日本のボックスシート車両は1-2アブレストに対してJRツアーズ車は2-2アブレストとなっている点が異なります。これも団体輸送を優先したためのデザインで、ラッシュの激しい路線では乗降に時間がかかるという欠点を克服できていません。 座席は1,500mmピッチのボックスシートで座席数は1両あたり56席。団体輸送用のためJR東日本の車両とは異なり、ロングシート部分や吊り手はありません。ただし、座席に手すりはついており、他社が主催する「通勤団体ツアー列車」に対応しています。 JRツアーズの団体列車としては車内で現金の収受は原則として不要ではありますが、部内用語で言う「通勤団体列車」の場合、運賃収受が必要となるため、運転台の後部に収納式の運賃箱と運賃表を表示するモニタを設置しています。 JRツアーズではキハ110形式はトイレつき/片運転台のキハ110形式8000番台1形式のみの所有で、通常はキハ110形式を背中合わせでつないだ2両編成を基本編成として運行しています。多客時はこれにキハ110形式を必要なだけ増結するわけです。一方でラッシュ時は委託元の気動車と連結しての運用もあり、そのへんは割と柔軟に使われています。 性能面では現在もそれなりに第一線で使える車両ですが、2ドアオールクロスシート車である点がラッシュ輸送に致命的に向かないため、次期新型車両は3ドアのマルチシートになるといううわさもあります。 もっとも、この事業も先細りなので新車が出るのかどうかは未知数ですが。 元がJR東日本のキハ110形式なので、JR東日本車との連結も当然可能。東北エリアではラッシュ時の増結車両としてJR東日本の車両に増結され「JR東日本主催の通勤団体ツアー」に使われることもあります。
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