JRツアーズ131系〈バリュートリップ〉 ■はじめに 当初485系の置き換えは585系〈ウルトラバイオレット〉で行なう予定でしたが、居住性を改善した585系は485系の64〜72名という定員に比べ56名と座席数が減少してしまい、客単価の上昇が懸念されました。 すべての旅行商品を〈ウルトラバイオレット〉にふさわしい価格にできればよいのですが、東京(上野)〜京都間の夜行列車やディズニー臨といった列車は低価格ゆえに支持されている面もあり、客単価を下げた車両も必要であるという結論に達しました。そこで、座席数を増やしつつも制作費を低廉し、比較的低額の旅行商品に対応できる車両として企画されたのが131系〈バリュートリップ〉です。 ■基本構造/走行装置 形式名からもわかるように、131系は直流専用車です。これまでJRツアーズは「線路があればどこへでも」をコンセプトに交直両用車のみを製造していましたが、131系の運行が想定する旅行商品の8割は直流区間内で完結するというデータから(残りの2割は気動車でまかなえばよいでしょう)直流専用で問題ないと判断しました。これによってC/Iをはじめとする交流用機器が搭載不要となり、価格面でも有利になります。 編成はクハ131+モハ131+クハ130の3両を1ユニットとした編成で、クハがダブルデッカー、モハがハイデッカーとなっています。これまでJRツアーズは「タフすぎてソンはない」という考え方からM車中心の編成を組んできましたが、131系は「幹線区間で標準的な性能が出せればよい」と割り切ることで、車両価格の引き下げています。 ただし、1Mで1コントの場合運転不能となるリスクがあるため、コントローラは2M1C×2コントとして冗長性を確保しています。この表記からわかるようにJRツアーズとしては初めて東洋電機製のコントローラを採用。ATR-H2220-RG699×2台でTDK-8810Aモータ(出力220kw・1,150V/267A・定格2,400rpm/トップ5,800rpm)を駆動します。駆動方式も東洋電機製でTDドライブを採用、ギアリングは6.53として40km/hまでの引張力2800kgf×4を確保。120km/hでMM電流137Aと、経済性の高い車両を造ることができました。 機器類はモハ131に集中配置。床下は走行系の機器でいっぱいなため、サービス関係は階下席を潰して配置している。左側のルーバーはモハ131の空調用。夏はここからホームに熱風を撒き散らす。 経済性という言葉は、第2種鉄道事業者ゆえに省エネのインセンティブに対する意識が低いJRツアーズに似合わない言葉ですが、MM電流を下げるということは言うなれば電力設備の貧弱な路線にも入線ができるということで、たとえば131系の場合70km/hへの加速で800A程度あれば問題なく走れますが、585系〈ウルトラバイオレット〉は簡単に1,000Aを超えてしまいます(そのかわり電流制限モードがありますが、加速力は大幅に低下します)。こういった取り扱いの容易さも、131系の魅力のひとつです。 3連で232席を設けることで、編成の有効長に余裕がない地方民鉄へも多くの旅客を運ぶことが可能。また、各社に支払う線路使用料金を圧縮できるため、商品価格に弾力性を持たせることができることから、旅行エージェンシーからも131系を指名するケースが多い。 ■車内設備/運用 座席は回転クロスシートを980mmピッチで並べています。980mmピッチということは必然的に座席の幅は440mm程度に制限されてしまうのがつらいところです。しかし、131系の耳目はあくまでも客単価の低下なのでここは涙をのんで440mm幅、奥行き465mmの座席を採用しています。また、詰め込みの関係上座面高さも430mm、リクライニング機構はオミットするなど、快適性においては見切った部分もあります。しかしその甲斐あって3両つなぎで232座席を設定することができました。 一方で2階席の床構造は多少の重量増には目をつぶり、15mm厚のゴムを3mm厚の鉄板で挟んだ上でさらにじゅうたんを敷いています。階下席において天上から二階席の足音が響くのはサービスとしてあまりよろしくないので、ここはお金をかけた部分です。 980mmピッチと585系に比べて若干窮屈ではあるが、リクライニング機構をオミットしたため占有空間自体は585系に引けはとらない。コンセントは各列窓側に1箇所。 正面形状は585系〈ウルトラバイオレット〉を簡素化したもので、2編成以上の連結を想定して貫通構造としています。また、交流区間には入線しない前提なので、運転台の高さを585系よりも高くすることができたため、貫通扉と運転台の干渉が585系ほど悩まずにまとまっています。 車体形状は軽量ステンレス製で、当初はJR東日本E231系サロE231形式の設計を流用する予定でしたが、機器の搭載や運転台の追加など手戻りが多く、結局新規で図面を起こさざるを得ませんでした。 とはいえ、585系と比べると製造費は8割程度とたいへん安く上がり、その割にはオペレーションは上々で旅行エージェンシー各社からも評判は決して悪くありません。 131系は東京、稲沢、吹田をベースに200km程度までのショートトリップを担当。485系〈とりのうた〉の置き換えとして民鉄直通運用にも付くほか、都市圏では座席数の多さを活かし、通勤ライナーの運行も担当しています。 現行の運用では朝のライナーで12両つなぎ(928席)の運行が行なわれているほか、ハイシーズンは上野発京都行きの夜行便が9両つなぎ(696席)で運行されている。名古屋で6両を切り離し、整備後中津峡や接阻峡への行楽列車として運行、3両は京都から舞鶴方面の団体列車を担当するなど汎用性の高さゆえ車両の回転率もよく、「稼ぐ車両」としてJRツアーズのなかでも評価は高い。
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