JRツアーズ557系〈ピオニー〉 ■序 これまでJRツアーズの標準車両として551系1000番台を量産してきましたが、551系1000番台の登場は2000年であり技術仕様的にも陳腐化してきたので、2013年に『現代の技術を取り入れた次世代の標準車両』が企画されました。 標準車両を制定するにあたって、これまで電車と気動車で別のラインとなっていた仕様を可能な限り統一し、より高い汎用性を持たせることが盛り込み、仕様を切ったのが557系電車とMD175系ハイブリッド車です。 ■車体構造・機器類 557系はクモハ557+モハ556+クハ556の3両1ユニットで、増結も3両単位で行なうことを原則としています。ただし将来4連運行を望むケースが生じた場合に備え、サハ557形の組み込みも可能としています。 車体は先頭部がt2.4の鋼鉄製、ボディはt1.5のステンレス鋼板で構成されています。585系〈ウルトラバイオレット〉でアルミのダブルスキンを採用してはみたものの、価格の割に目に見えたメリットがなかったため、汎用車として量産が見込まれる557系では価格の安いステンレスを採用しています。 扉は片側1箇所ですが、ドア幅は1,000mmとしてライナー運行時に配慮。床面高さを1,060mmとすることで車輪径860mmのままでドアステップを省略しています。これはMTrの小型軽量化による部分が大です。これまで交流機器は大電圧を扱う関係上小型化が難しかったのですが、軽量化が強く求められる新幹線電車の性能向上に従いMTrはどんどん小型軽量化が進み、重量で言うと従来は3t近くあったものが現在は1.1tというところまできています。当然外形も小型化し、床面高さ1,060mmでも収まるサイズとなっています。551系では三菱電機製の新幹線用MTrを採用し、床面高さを1,060mmに押さえ込んでいます。 ただし、新幹線用のMTrゆえに油浸強制風冷式なので、床下からの騒音はいかんともしがたいものがあります。 話が前後しましたが557系はモハ556にMTrやC/Iなど制御系の機器を搭載し、クモハ557に補助電源系・空気系の機器を分散配置しています。モータはインダクションモータのMB-5581(140kw/1100V/144A/1,920rpm)で、ギアリングは85:14=6.07となっています。 MD175系がPMSMを採用しているのに対し557系はインダクションモータとなっているのはMD175系はハイブリッド車で少しでも効率を上げる必要があるため個別制御を採用する必要があるのに対し、性能に余裕のある557系であれば1C4Mのインダクションモータという組み合わせで価格を下げるほうが得策という判断がなされています。 実際、出力は電圧/電流制御で54km/hまで25kN(2,549kg)ありますので、加速力は54km/hまで余裕の2.3km/h/sを確保しています。ハイブリッド車のMD175系とは比較にならない大差がついていますが、やはり電車は自前で燃料を抱えなくてよい分軽量化ができますし、MD175系が1M1T相当なのに対し557系は2M1Tとなっているのが性能差となって現れています。なのでインバータは1C4MのフルSiCインバータ、MAP-164-11MRHをクモハ・モハに搭載。2コント体制で冗長性も確保しています。 このようにMD175系とは走行特性が大きく異なりますが、インバータの電流電圧制御はソフトウェアによっていかようにも操作できる利点を活かし、速度特性をMD175系にあわせた『低加速スイッチ』を557系に装備し、MD175系との併結運転を可能としています。これによって上野発那珂湊・小名浜行きといった列車の設定も可能となりました。 最高速度は130km/h。25‰上り勾配での均衡速度は110km/hを確保し走破性能を確保しています。ブレーキはHRDA-1A。回生ブレーキと空気ブレーキで停止します。これまでJRツアーズではき電設備の脆弱な区間を考慮して発電ブレーキを併用していましたが、557系ではその必要性も薄いとして回生ブレーキのみとし、その分のリソースを軽量化に向けました。 勝田駅で分割される運用についたいわき行き557系(左)と非電化区間の湊線に直通するMD175系那珂湊行き(右)。部品共通化は運用の柔軟性にも寄与しました。 ■車内設備 車内設備はMD175系と同じコンポーネントを採用しています。座席もMD175系を同じTR64形。これをシートピッチ1,000mmで並べています。中間車のモハ556形に休憩コーナーがあるのも同じです。 MD175形では発電用エンジンを床上装備しているためその分座席が少なくなっていましたが、557系ではその必要がないため座席定員を8名増やしています。 冷房もバッテリに依存しないため集中型のAU704を各車1基装備。ハイブリッド車と違い屋上機器はエアコンだけとシンプルな構成になっています。 このほか、九州地区のみ限定で配置されるクハ556-2000番台は先頭に展望スペースを装備しています。また、編成に含まれない増結用の展望先頭車クハ557形2000番台も、九州地区のみの配属となっています。 ところで557系のペットネームは〈ピオニー〉ですが、どうして2000番台の側面には〈557 El Dorado II〉って書いてあるんでしょうか(〈エルドラド〉は487系のペットネームですね)? 福岡支店は相変わらず『わが道』を行くようですね。 極端に窓を大きくした九州エリアの557系2000番台。次位にクモハ557がつながっていますが、これは3両固定の557系に偶数向きの単車、クハ557を増結した形になります。 ■運用 557系は今後の標準車両として首都圏の551系基本番台と九州の487系置き換え用として2014年より順次投入を続けています。これにより2018年までには487系を、2020年までには551系の基本番台を淘汰する計画です。
JRツアーズ発足から30年。557系・MD175系の投入をもってようやく国鉄時代の承継車両との世代交代が完了します。 |