JRツアーズ585系「ウルトラバイオレット」 ■序 2000年頃、JRツアーズの主力列車は485系と487系で占められていましたが、老朽化が進行する485系の置き換え用に551系〈ヴィオラ〉が造られました。しかし、関東・関西からは551系では物足りないとの声が出ます。 関西ではより高品質の旅行を提供したい、特に客単価の高い関西から北陸方面の団体需要に対応した車両、東北エリアを営業県内に抱える関東圏では、タフな走行性能を持つ車両を要求してきました。そこでこの両者を満足させるべく開発されたのが585系〈ウルトラバイオレット〉です。〈ヴィオラ〉の上位バージョンの意味合いで〈バイオレット〉としたものと思われますが、それにしても〈ウルトラバイオレット〉では「紫外線」です。 ■基本構造 関東圏ではその旺盛な需要から、広域に運行する列車があります。たとえばディズニー臨は、夜行で舞浜から秋田へ走った後、秋田支社の間合い運用で秋田〜横手を1往復した後青函トンネルを抜けて函館へ、そこから盛岡経由で夜行特急として上野に戻るといった、ほぼ24時間に渡って走る運用が組まれています。こういったタフな走りに対応できる走破性能と冗長性がデザインの肝となりました。 モータはMB-5072。128kw/1100V・86A/定格2,365rpm/ピーク5,800rpmという性能を持っています。JRツアーズでは出力の評価は連続定格で行なうため、もしこれを1時間定格に直せば140kwとなります。JRツアーズでは固有の型番をもたないためMB-5072としていますが、要はMT75です。 MT75は軽量(質量560kg!)高性能で、価格もこなれているため性能的には申し分がありません。これを3レベルのMAP-148-15VRDHコントローラで制御します。イマドキにしては3レベルインバータとは実に珍しいものを装備していますが、これは高調波対策で、特に誘導対策の甘い地方民鉄へ乗り入れる場合、2レベルよりも3レベルのほうが誘導障害に対応しやすいためです。もっとも、誘導障害以前にスパルタンな電力消費量をどうにかしなくてはいけないと思いますが。 551系〈ヴィオラ〉(左)よりもスパルタンな運用に対応すべく、ある意味金にあかせて作られたのが585系〈ウルトラバイオレット〉(右)。そのため製造数は吹田と田端・秋田の需要を充たすだけの少数となっています。 システムは機器構成上(いや、予算かな?)の都合から1C8Mの構成ですが、ギアリングは極端に高速側に振っており4.21。これまたVVVF車では極 めて珍しいセッティングになっています。これを支えるため585系の基本編成は4両オールM。2本連結の8両つなぎで編成出力4,000kwを超えてしまいます。なお、駆動方式は耐久性に優れたWNドライブです。 これによって100km/hまでの加速力2.3Km/h/sを維持しつつ(出そうと思えばもっと出せますが、変電所が飛びます)、最高速度176km/hをクリア。ほくほく線で160km/hを(力任せに)安定して出せる性能を確保しています。 160km/h対応ということで、ブレーキもこれまでの踏面式ではなくディスクブレーキを採用しています。とはいえ、全軸駆動のオールMなので、ブレーキディスクは車輪装備のタイプとなっており、側面から見ると鏡面になっているブレーキディスクが目立ちます。ブレーキ装置の変更から台車も新規に起こすこととなり、551系と同じ軸梁式ボルスタレス台車ではありますが、T-5850という型番を新たに起こしています。 ブレーキはMBSA-1A。純電気ブレーキです。基本は回生ブレーキを使用しますが、回生失効が懸念される区間では発電ブレーキに切り替えて走行します。そのため、モハ584・モハ585にはブレーキ用のチョッパと発電抵抗を装備しています。とはいえ発電ブレーキが必要になるのは直流電化区間での高速回生か、き電設備が貧弱な地方民鉄区間くらいなもので、はたして発電ブレーキが必要だったかどうか疑問が残るところです。 もともと線路使用料の支払いが電力回生に対するインセンティブを含まないため、回生ブレーキに関してはきわめて消極的なJRツアーズですが、585系に関しては160km/h運転を考慮した結果強力な空気ブレーキを装備したことで、回生ブレーキをメインに使うようなセッティングを例外的に施しています。これは、発電ブレーキがチョッパを挟むとはいえ抵抗器で放熱することには変わりなく、160km/hからのブレーキを発電ブレーキだけで補おうとすると、発電抵抗がとてつもなく大きくなってしまうためです。 こうしてほくほく線で160km/h運転が力任せに可能となったのですが、北陸新幹線開業後は160km/hを出す機会もなく、せいぜい140km/hで青函トンネルを走り抜けるときくらいしかその高速性能を活用するチャンスがなくなってしまいました。 台車はJRツアーズで唯一の車輪ディスクブレーキを採用。直流区間(というよりは地方民鉄)での回生失効に対応して発電抵抗も搭載。万能車を目指した結果は、重量と価格に禍根として残りました。 パンタグラフは交直流用が2基、直流用が2基の計4基を搭載。集電電流に余裕がある交流区間では2基上昇で運行できるものの、直流区間では短時間定格でピークで3,000Aを超える可能性があること、また、冗長性の確保の観点から編成4基となっています。特にクモハ584にいたってはパンタグラフを付ける場所に困った挙句、運転台後部というイビツな場所に設置せざるを得ませんでした。 形式はクモハ585=モハ584・モハ585=クモハ584のユニットと、増結用の個室車両クロ585の5形式があります。モハ584・モハ585形に C/Iをはじめとする交流機器・補助電源装置などを搭載。クモハ585・クモハ584にはコントローラおよび空気系の装備を搭載しています。基本はこのユニットをつないだ4両つなぎの2コントローラでの運転となりますが、クモハ+モハのユニットにたとえば553系〈エーデルワイス〉と連結した6両つなぎという使われ方もします。 そのため、2両単位でシステムが完結するよう、コンプレッサはMBUスクロールタイプをモハ584・モハ585にそれぞれ搭載。SIV(C/I)もクモハ585・クモハ584にそれぞれ搭載しています。 このため、価格は551系に比べて2.5倍ほどとなり、関西地区・関東地区以外での投入が難しくなってしまいました。 直流区間での集電電流確保から、クモハ584は運転台の後部にパンタグラフを搭載するといった無様をやってのけています。このパンタは直流区間専用で、交流回路に切り替わると主回路から開放され、パンタグラフを下ろしてしまいます。 ■車内設備 接客設備は485系・511系にくらべグレードをアップ。座席ピッチを485系の910mm、511系の950mmから1050mmに広げ、また扉も1000mm幅とし、ホームライナーなどの運用時にも乗降をスムースにすることができました。トイレも車いす対応のものをモハ585に設置するなど、21世紀の車両にふさわしい設備となりましたが、一方で割を食ったのが座席定員で、モハ484ベースで72席だったものが、モハ585が40席、それ以外でも56席と大幅に減ってしまい、485系より1両増えたにもかかわらず、4両の編成定員はわずか204席となりました。485系が3両で182名ですから、客単価としてもあまり美味しくありません。 座席はシートピッチを1,050mmにしたぶん余裕が生まれ、座面高さ400mm、背面高さ740mmの大型座席を用意。リクライニング角度は35度としています。また、ロングレンジの運用を担当するため座席両脇に首置き、座席下にはフットレストを、座面にはレッグレストを設け、ヘッドレストは可動式と しています。 ただ、ここまでやっておいてなんですが、リクライニングシートは所詮代用寝台。JRツアーズとしてはコーチとしての性能を追求したいところでしたが、リクライニングしない座席はグレードを低く見られてしまう昨今、断腸の思いでリクライニング機構を取り付けた経緯があります。 その鬱憤を晴らしたのがクロ585で、6室の個室は4人用コンパートメント。座面幅660mm、奥行き580mm、背面高さ760mm、トルソ角105度の非リクライニングシート。面圧を極力一定にするため座面幅を大きくとり、質量の分散はばねではなくやし繊維の弾性で行なうという、ちょっと他では味わえない「疲れない座席」を用意しました。 ロザ・ハザとも機器の薄型化で床面高さに余裕ができた分を、浮き床構造として静粛性を高めることで、オールMのハンデを克服。1.5mmのアルミ板で 30mmのゴムを挟んだ床を、吸音材を介して台枠から50mm離して設置しているため、防音・吸音・遮音のうちの2要素を充たすことができました。 今更ですがボディはアルミ製です。静粛性と軽量化を両立するならならこれしかありません。 ロングレンジの運用を想定して、レッグレストつきの座席をおごった585系のコーチ。他形式と設備の格差が大きいため、機構上は551系や131系との連結が可能でも、運用上連結するのはためらわれます。そのため、他形式の連結相手はもっぱら寝台車の553系ばかりです。 ■運用 585系は2005年より製造が始まり、吹田支社と田端本部に4連がそれぞれ12本ずつ、秋田支社に4連が6本の計72両、個室車両のクロ585が田端本部に2両、吹田支社に4両の計6両が配属されています。551系の2.5倍という価格が災いして年間5編成程度しか導入できず、吹田・田端・秋田以外の視点には平行して廉価版の551系および551系1000番台が、田端・稲沢・吹田にはさらに価格を落とした131系の導入に切り替わり、585系はこれ以上の製造は行なわれない予定です。 運用は客単価の稼げる特急運用が主体で、吹田支社では加賀・金沢・和倉方面への温泉ツアー、田端と秋田は新幹線の走れない時間帯を利用した夜行列車の運行を主体としています。特に上野〜青森便は〈あけぼの〉亡きあとウルトラバイオレット〉の高速性能を存分に活かした運用で、羽越本線経由で所要時間7時間48分、表定速度101.9km/hで駆け抜けます。
窓割が異なる個室車両、クロ585。運転室直下を化粧室とした関係で乗務員扉がないのが特徴。ついでに言うと洗面所の関係で前面も非貫通となっている。 |