1988年から1990年前半にかけて、熱病のように流行した脱衣麻雀があった。アイドル麻雀である。麻雀に勝つと実写ともアニメともつかない、当時の芸能アイドルに似せた女の子が服を脱ぐという脱衣麻雀である。いまやすっかり見る影もないが、ある一時期アイドル麻雀はたしかに脱衣麻雀の主流だったのである。ここではその、アイドル麻雀について振り返ってみたい。
■16色でリアルな女の子
脱衣麻雀メーカーというのはえてして中小メーカーが多い。そのため、自社で高性能基板を設計する力などない。脱衣麻雀の基板を見ると、あるメーカー(隠すことはないか。ニチブツだよ)の脱衣麻雀は、1998年の時点でもメインCPUが8ビット、しかもZ80だったほどだ。 最近でこそ大手メーカーの高性能システムボードを使わせてもらえるようになったが、なんでも自社開発の時代にはそのようなことは到底不可能だった。そこでいきおいアイディア勝負となるのが脱衣麻雀の常である。もっとも、ここで言うアイディアとはいわゆる「斬新な提案」(*1)ではなく、他社を出し抜く程度の瑣末なウリを作るという意味なのだが。 まあとにかくアイドル麻雀は、そんな脱衣麻雀業界の特殊事情から生まれた産物なのである。 ■アイドル麻雀誕生前夜
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デジタルRGB16色で実写はかなり無理があった。そこでいきおいマンガチックな絵が当時の主流だった。 |
*1:もちろん斬新な提案はある。スーパーリアル麻雀P2やアイドル麻雀放送局などはその典型である。
*2:あくまでも俺の推測である。単に会社に絵描きさんがいなかったという説や、開発者がオヤジで、アニメ絵に免疫がなかったという説もないわけではない。 *3:コナミ
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16色ながらアナログRGBを採用した結果、なんとか実写を出せるめどが立った。日本物産の「セカンドラブ」でデジタイズ画像が試みられたが、今一つ肌の具合が良くない。 |
■アナログRGB登場
昨今の基板は最低でも256色、ものによっては1600万色以上の色が出せる。しかし当時の麻雀基板で256色出せるものは少なく、多くの基板は16色しか出せなかった。しかも出せる色の種類が制限される、いわゆるデジタルRGBの基板もかなりあった。これらの基板ではきれいな肌色を出すことは実質不可能。肌色は黄色や白で代用していた。実写画像を表示するとしたら、デジタルRGBでは論外。アナログRGBで色を厳選しなくてはならない。 当時、アナログRGBで実写画像を使用したのが日本物産の「セカンドラブ」だ。画面を見ていただければわかるが、アナログRGBとはいえ16色(*4)では陰影などマトモにつけられず、あばたのような肌になってしまい、きれいな画像は得られなかった。つまり、実写を取り込むだけではダメ、ということである。 ではどうすればいいか?その回答がアイドル麻雀なのである。 ■アイドル麻雀の特徴とは
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*4:基板を詳しく調査したわけじゃないから、もしかしたら16色以上あるかもしれない。その辺の話しに詳しい方、教えてください。
*5:まあ、こればっかりは当時の業界みんなであちこちから素材をパクりまくっていたからねぇ……。著作権にうるさい某社だって……ゲフゲフ。 |
■アイドル麻雀の隆盛
ともあれ1988年、V−SYSTEMが「アイドル麻雀放送局」を発売した。これによりスーパーリアル麻雀一辺倒であった脱衣麻雀に、V−SYSTEMが一矢報いることができた。しかし、PIIにはなくてアイドル麻雀放送局にあった特徴が、アイドル麻雀を崩壊へと走らせるのである。 PIIの技術は、他者が容易にまねできるしろものではなかった。それゆえにセタは10年の長きにわたってアドバンテージを保てた。しかし、アイドル麻雀放送局の技術は、絵を描くテクニックさえあれば容易に他社が模倣できるものであった。パクれるものは骨までしゃぶり尽くすのが脱衣麻雀業界。競合他社はこぞってアイドル麻雀をパクリ出した。 結果、セタをのぞくほとんどのメーカーから、アイドル麻雀が発売された(*6)。 ■アイドル麻雀の衰退
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ついに完成した究極の16色画像「アイドル麻雀放送局」。できてしまえば何てことないグラフィックだが、この画像は脱衣麻雀に革命を起こした。
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*6:ま、その技術力の高さが災いして今のセタはあそこまでズタボロになってしまったんだろうな。合掌。
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アイドル麻雀末期に登場した「スーパーマル禁版」。他社との差別化をはかるためにフィーチャーを過激化している。
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■転進、撤退、そして
アイドル麻雀は1991年に衰退する。原因はいくつかあるが、一番の原因は「最大公約数のニーズが変わってしまった」ということである。ジャレコの発売した「アイドル雀士スーチーパイスペシャル」、セタの「スーパーリアル麻雀PW」というアニメ絵麻雀の傑作は、アニメファン層をアイドル麻雀から奪取し、日本物産が提唱した「AV麻雀」は、アイドル麻雀のコアターゲットであるサラリーマンを虜にした。 突然、アイドル麻雀は中途半端な存在となってしまったのである。加えて、サミー工業(現サミー)やビスコといった新興勢力が、声優付きアニメ絵脱衣麻雀で殴り込みをかけてきた。 メーカーは生き残りをかけてアイドル麻雀を放棄した。日本物産は究極のアイドル麻雀であるLD麻雀への転身を図り、もともとアイドル麻雀ではパッとしなかったジャレコ、セイブ開発はあっさりとアニメ絵麻雀に転進する。 セイブ開発にはSTG用に作られた、SPIシステムという高性能なシステムボードがあった。このボードは32768色を出すことができ、他社にはまねのできない艶やかな色を出せる。もともとセイブ開発は「E雀シリーズ」というアイドル麻雀を出していたが、しばらくの沈黙ののち、「E雀ハイスクール」から静止画ながら美しいアニメ絵脱衣麻雀となり、ユーザーの好評を得た。 ジャレコにも「メガシステム32」という高性能システムボードがあり、人気作家+声優+動画を組み合わせた「麻雀エンジェルキッス」以降、このシステムボードを使用している(VS雀士ブランニュースターズの対戦基板は独自仕様、スーチーパイ3からはセガのNAOMI基板)。 また、アイドル麻雀を提唱したV−SYSTEMも、アニメ絵麻雀への転進を図る。もともと開発能力に長けたV−SYSTEM。単なるアニメ絵麻雀ではなく、対戦脱衣麻雀という新システム(まあ、日本物産が1987年にちょこっとやってはいるが)を組み込み、大ヒットを飛ばした。 このように、華麗な転進をとげたメーカーがある一方、ホームデータ、ユウガといったメーカーは次の一手を打つことができず、脱衣麻雀から静かに撤退した。 ■アイドル麻雀という幻想
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