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  余裕ある普通のクルマ…600形

 500形は持ち前の大馬力と比類なき輸送力で好評を得ましたが、エネルギーコストの観点からいうと決して優れたものではありませんでした。民鉄各社では回生ブレーキの導入が進んでいたこともあり、加賀電でも新型車両に回生ブレーキの導入が検討されました。
 回生ブレーキを使用するには複巻モータを使った界磁チョッパ制御や界磁位相制御、直巻モータを使った電機子チョッパ制御が考えられますが、加賀電としては架線電圧の変動に弱く、モータのメインテナンスに手間のかかる複巻モータの導入は抵抗がありました。電機子チョッパ制御なら直巻モータが使えますが、いかんせんサイリスタをはじめとする半導体が高価で、加賀電のような中小私鉄がおいそれと導入できるものではありませんでした。
 そんなとき、直巻モータを使って比較的低価格で回生ブレーキを使える界磁添加励磁制御が三菱電機から提案されました。この制御方式に軽量なアルミ押し出し材を使った比較的低廉なボディの提案が近畿車輛から行われ、そんな流れから600形は近畿車輛での製造が決まりました。
 モータは信頼と実績のMB-3020。またかよという気がしないでもありませんが、加賀電はMB-3020が相当気に入ったようです。制御器はABFM-168-15MRH。低速域はMB-3020の大トルクで乗りきり、高速域は弱め界磁25%で伸ばすという味付けです。したがって歯数比は500形の5.85に対して6.06とハイギアードなセッティング。限流値610アンペアで定格速度39キロ、最高速度110キロとなっています。このセッティングでMB-3020を4,600rpm程度まで回すため、100キロ以上の走行音が大変やかましいのが玉に傷です。

▲わずか5度ですが後退角のついた運転台。わずかな傾きですが列車風の低減にはそれなりの効果がありました。

 ところで、モータ出力は500形の135キロワットから125キロワットにダウン(というより旧に復しました)しましたが、これはアルミボディによる軽量化によって、125キロワットでも性能を維持できること、弱め界磁を25%にするなら過電流をかける必要はないという判断です。実際600形の性能は2M1T時でα=3.0、β=3.8を維持しています。もっとも歯数比が高い分トップスピードの伸びは500形と比べ劣りますが、平坦線で最高認可速度106キロであればハンデにはなりません。
 ブレーキは加賀電では初採用の電気指令式、MBSA-1です。ブレーキ自体はHSC-Dでも何ら不満はないのですが、ブレーキ管を簡略化することが可能という点に惹かれました。空気、特に圧縮空気というのはけっこう湿っていて、ブレーキ管の腐食によるメインテナンスは手間なのです。それを電線に置き換えることで、メインテナンスの手間が省けます。また、空走時間をHSC-Dの2秒から0.5秒まで短縮ができるのも魅力でした。単位スイッチを懐かしむ人も、MBSA-1になって「これなら」と納得したそうです。加速は多少かったるくても支障はありませんが、ブレーキがかったるいのは安全にかかわるからです。
 600形のインテリアはなんのへんてつもない4ドアロングシートの通勤形ですが、正面貫通路の窓と車掌席の窓を拡大し、子供が前面を見やすいよう配慮しています。これは機能とはまるで関係のないお遊びですが、なにげにこれが当たってしまい、200形登場の呼び水となったのだから世の中わからないものです。
 また、500形では切妻だった正面を600形では5度ほど傾けた3面折妻としました。地下線においての列車風の軽減が狙いですが、相応の効果があったため、100形にも(もっとも100形は丸妻ですが)受け継がれました。
 600形は500形をベースに、その時代における新技術を取り入れて実に普通の電車となりました。また、ささやかながらスタイリングに「遊び」の要素を取り入れた結果、加賀電らしからぬスタイリッシュなクルマとなりました。
 600形は1987年〜1992年に6編成が作られ、500形と共に加賀電通勤車の主力として活躍しています。

▲側面窓は憧れのサッシュレス一段下降窓。ユニット窓の枠もなくスッキリとした見付になりました。アルミボディの賜物です。台車は500形と同じS形ミンデン台車を採用。「問題のないところはいじらない」の原則を貫き、ボルスタレス台車の採用は見送りました。このときはね…。

弱め界磁25%…
おや、そこに引っ掛かりますか。なかなかのマニアですね
まあ普通は35%までよね。心の師匠である山陽電車でも35%だし
たしか50形とか70形は線路が弱いからといって60%弱め界磁すら殺してましたよね…
バブル万歳で〜す! 少なくともメインラインは大手民鉄にも負けないご立派サンな道床にチェ〜ンジです!
106キロ運転に際して徹底的に線路を養生しました
それにしても25%ですか…
それについて来るMB-3020もすごいけどね。よく整流不良を起こさないもんだと思うわ
すいません質問いいですか?
どうぞ
私の友達の疑問なんですが、何で歯数比を6.06にあげたんですか? 500形と同じ5.85なら、弱め界磁25%なんて無茶は不要だったと思うんですが
たいてい「友達が」という前置きのある質問って、自分の質問ですよね
そっちに関しての回答は不要です…
歯数比を高くとる主な理由は、低速のトルクを太らせるため…ってのが教科書的な回答だけど、それじゃあ納得しないわよね
ええ、500形が5.85で問題ないんですから
じゃあ、600形にあって500形にないものを考えればいいのよ
…回生ブレーキ?
そうです。機構上界磁添加励磁制御は低速まで回生ブレーキがかかりません。歯数比が低いとそれだけ失効速度が高くなるのです
5.85で30キロくらい、6.06で23キロくらいかしらね。せっかくの回生ブレーキだもん、美味しいところまで使い切りたいじゃない
たかが7キロ…
されど7キロよ。この速度域では
そのされど7キロのために、高速ではあの甲高いモーター音を延々聞かされるわけですが
たかが5デシベルじゃない
されど5デシベルですよ…

▲軽快な足回りと読みやすいブレーキングが乗務員に受けて、600形は普通電車を中心に使われています。最近では電気指令式に改造された400形や750形を引き連れて3両編成の運用にも就くようになり、万能選手としての活躍はまだまだ続きそうです。

フラッグシップトレイン…200形

 競合する北陸本線の利便性向上に対抗するため、加賀電ではこれまで毎時2本運転だった特急を毎時3本運転とする計画を立てました。これにより増加する車両運用を吸収するため、新型車両の投入を計画します。
 その新型車両は600形でも構わなかったのですが、北陸本線に対抗する「売り」がほしいということで特急用の新形式を起こすことにしました。これが200形です。これまで4ドアの電車ばかり作ってきた加賀電ですが、今回は特急用ということで300形以来の2ドア車となりました。また、600形で好評だった前面展望を発展させ、運転台を屋上にあげた展望列車としました。ここでやめておけばいいのにさらに調子に乗って「いつでも座れる」ことを売りとするため、徹底的に座席数を増やすという方針から、両先頭車はダブルデッカーとしました。とどめにシートピッチを870ミリまで詰めた結果、3両で276席という座席数を確保。着席サービスに大きく貢献しました。
 このように(加賀電にしては珍しく)接客設備に力をいれた結果、重量が1両あたり48トンというヘビー級になってしまいました。特急に使う以上、性能の低下は許されません。そのためモータは165キロワットの大馬力モータ、MB-5023を8台装備。これを6.53というハイギアードで駆動します。このハイギアードで低速の引き出しはなんとかなりますが、今度は高速でトルクが不足します。こうなると直流モータでは手も足も出ませんから当然、MB-5023の型番が示すとおり交流モータを採用。制御器も加賀電では初となるVVVFインバータとなります。
 制御器名はMAP-228-15VRDH。型番が示す通りブレーキは回生/発電ブレンディングとなっています。これは車体の重さが重さなので、高速域で回生ブレーキが絞りこまれると空気ブレーキに過大な負担がかかるため、発電抵抗を装備して確実な電気ブレーキの効果を期待したためです。回生と発電はブレンディングせず、78キロ以上は発電ブレーキ、それ未満は回生ブレーキとしています。もっとも列車密度が低い時間帯では77キロでも回生ブレーキの効果が期待できないため、NFBで回生を殺すことも可能です。モータの引張力は1,800kgfありますので、これによって満車時でもα=2.8、β=3.8を確保していますが、定格電流がけっこうな数字になりますので、ラッシュ時に200形が続行すると電力設備的に厳しいのだそうです。

▲機器類は中間車251号車に集中配置。というより251号車以外にまとまった機器を置くスペースがないのが現状です。制御器は1C8M。床下にFLと並んででんとぶら下がっています。251号車の階下席には発電抵抗と3両分のサービス電源を供給するSIVなどが収まっているのです。
 

 制御器は1台しか搭載していません。つまり1C8Mとなるわけですが、このシステム構成では低速での踏ん張りを期待するコンセプトに矛盾しています。これは純粋にコストの問題で、価格が1C1Mどころか1C4Mすら許しませんでした。雛形のないボディを製作するということは、多くの部品が特注品になることを指します。1個1個の部品のコストアップが全体になるとバカにできないものとなるのです。そのため車両コストを無尽蔵にかけられない加賀電としては、性能に影響ない部分で妥協を迫られます。展望席と2階席の側面窓は当初曲面ガラスを採用予定でしたが、コストダウンのため平面ガラスの組み合わせとなっています。ボディもアルミにできれば多少は軽くなったでしょうが(実際800形はアルミボディを採用して軽量化しています)、価格面で折り合いが付かず普通鋼となってしまいましたし、台車も当時の技術上の不安からボルスタレス台車の採用はされませんでした。

▲スタイリングを整えるのにもお金がかかります。ボディが加工がしやすい(=工賃が安い)直線基調になったのもひとえにコストです。800形ではその鬱憤を晴らすかのような曲線デザインとなりましたが。

 このようにいろいろと矛盾と妥協を重ねて登場した200形ですが、旅客からは好評をもって受け入れられ、ほかの4ドアの特急はいつ200形になるのかという問い合わせも受けるほどになりました。こんなことは加賀電の歴史ではなかったことで、加賀電としては旅客の要望に答えるべく、日中の全特急を200形とするため、合計5編成も作ることとなりました。
 現場としては再設計に時間がほしかったところですが、営業に押しきられる形で200形を製造。反対の声のひとつもあげたかったのですが、200形のお陰で利用客が15%も増えた(これにあわせて3分のスピードアップをしたというのもありますが)ため、そういう声は聞き入れられることはありませんでした。
 200形は加賀電のフラッグシップトレインとして、特急を中心に大活躍しているのは承知の通りです。

▲3両で144トンの重量物を走らせるには相応の軌道と電力設備が必要です。バブル時代に軌道の養生がなされていなければ200形は企画の俎上にすら上がらなかったでしょう。逆に言えば200形が106キロで走れる間は、加賀電は経営が安定しているともいえます。

200形嫌ってる人多いですよね
むしろ好きな人がいるのでしょうか
大勢の旅客です
その視点を忘れていました
鉄道会社にとって一番忘れてはいけないものだと思いますが…
まあ、M台に出入りしにくいし車内清掃は手間かかるしで、運転士で好きな人はいないわね
巡回がしづらい、車掌室を通路が貫通しているなど、車掌の評判も最悪です。保線のかたがたも「レールクラッシャー」といって嫌います
電力指令のエブリワ〜ンも、「電気イ〜タ〜」言って嫌いま〜す
工場も整備が厄介と言って嫌いますね…
しか〜し! 加賀電の稼ぎ頭である以上は、受け入れるのが大人で〜す
実際特急の利用率って276席も用意するほど高いんですか?
加賀電利用客の10%が都市間利用です。つまり金沢市内〜小松市内の高額運賃をご負担いただいている旅客が多いので、200形は必要なのです
運行コストが1.5倍でも、1.7倍の旅客が利用してくださればオッケ〜ノープロブレムで〜す!
あと、お子様の人気が高いのも素晴らしいことです
特急を4ドアで代走すると露骨に子供が嫌な顔するもんね
…? そこがよくわかりませんが?
都市間利用でお子様が「加賀電特急に乗りたい」といえば、大人運賃が自動的についてきます
…大人運賃…あ、保護者ですか
お客様が喜んでくれ〜る商品を大事に育てるの〜が、経営者で〜す!
すごい! 私鉄みたい!
加賀電は私鉄じゃないんですか?
私物の鉄道という意味では私鉄ですね。ですから加賀電内部では「民鉄」という言い方はしません
本当ですか?
嘘よ

▲なんだかんだで200形は子どもには人気があります。そのため休日の動物園行き臨時急行には最低でも1運用、200形を投入するよう頑張っています。とはいえ、200形が1本検査に入ると定期特急だけで運用がいっぱいになってしまうのですが。

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