自動車に埋もれてがんばる
多摩テックの路面電車
 「操る楽しさの提供によるモータリゼーションの拡大」がコンセプトの遊園地、多摩テックが9月30日を持って閉園します。今、国産車が一部のハイブリッド車を除きたいへん売れ行きが悪い状態で、親会社がこういった施設を維持する余裕がなくなってしまったということなのでしょうが、同時に「モータリゼーションの拡大」というコンセプトが現在の親会社の考え方と合致しなくなったというのも閉園の理由としてあるのかもしれません。自動車会社も自動車という乗り物が曲がり角に来ていることは痛感していることでしょう。親会社が閉園を発表したときに出したコメントもそれを物語っています。
 「多摩テックは開業当初の目的を達成した」
▲「将来のお客さん」である子供たちに運転の楽しさを教えることで、自動車と長い付き合いをしてもらうことが目的のひとつだった多摩テック。運転することが楽しいのは今だって変わらないはずなんだけど、それ以上に大事なことがあるのもまた確かなのです。

 多摩テックはそういった成り立ちから自動車のアトラクションが中心ですが、ひとつだけ鉄道系の乗り物があります。名前を「デンタのちんちん電車テックン」といい、ヨーロッパの路面電車をモチーフにした車両を操作するアトラクションです。電車は101号から105号まで5台あり、ワンハンドルのマスコンハンドルを操作して1周します。

▲乗車したのは102号。自動車ばかりの多摩テックの中で孤軍奮闘してきた5台の電車の内の1台です。

▲操作はワンハンドル。ハンドルを手前に倒すと加速し、奥に押し込むと減速します。

 「操る楽しさの提供」は鉄道も例外ではなく、線路脇には本物の鉄道に準拠した標識が並べられています。必ずしもそれを遵守せずとも電車は走りますが、守ったほうが断然面白いのは確かです。そんなわけで青信号とともにマスコンを手前に引いて加速。マスコンはノッチがなく単純なボリュームになっているようで、手前に倒すほど高い加速力を得られます。
 軌道は鉄のレールではなくコンクリートにゴムタイヤなので、路面のでこぼこを露骨に拾い、走り心地は新交通システムのそれに近いかもしれません。サスペンションはほとんどきいていないので時々びっくりするような突き上げを食らったりもします。
 路線はけっこうアップダウンが激しく、上り坂ではフルステップでも気息えんえんのぼりきる感じで、逆に下り坂はちゃんとブレーキをかけないとけっこう加速します。速度調整は電車のそれとは異なるため、スムースな走りをするのはなかなか難しいでしょう。

▲線路には実車に準拠した標識が並びます。

▲アップダウンの激しい線形に劣悪な軌道状況が合わさって、乗り心地はとてもワイルド。

 多摩テックのコンセプトによる「モータリゼーションの推進」によって、日本全国の路面電車が廃止や縮小の憂き目に遭いました。そんなモータリゼーションの象徴みたいな遊園地において、路面電車ががんばっているというのもなかなかに愉快なことでしたが、さまざまな環境の変化はモータリゼーションのあり方を考え直さなくてはならないところに来てしまいました。これまでのように、楽しさのために化石燃料を燃やすことを良しとしない時代となったのです。
 もちろん多摩テックの親会社も生き残るために、これからの自動車のあり方を考え、提案しようとしています。また、これまで省みられなかった路面電車に新しい技術が投入され、日本各地で路面電車を組み込んだ街づくりが試みられています。今後かつての路面電車のように自動車が駆逐される、ということはないでしょうが「楽しむための自動車」というスタイルは大きく変わるかもしれません。かつては主要交通機関だった馬が、今では「乗馬」という限られたジャンルになってしまったように。

▲かつて路面電車は自動車に駆逐されてしまいました。今度は自動車を駆逐するのではなく、いかに共存していくかを考えていければいいなと思います。

▲閉園まで無事故で走りきること。それがこの路面電車に課された役割です。

 ピーク時の6割ほどに入園者数が減っていたとはいえ、多摩テックは多くの人に愛されていた遊園地であることには変わりありません。2009年8月現在、現在多くの人が別れを惜しみつつ来園している結果、前年比で1.7倍の入場者数を記録しています。
 「テックン」に課された使命は、最後まで無事故で走りきること。鉄道において「何事もなかった」ことこそが最高の勲章なのです。これから廃止まで予備車両なしでのフル回転が続くかと思いますが、どうか無事故で最後を迎えてほしいなと思います。
 
「テックン」について
▲ダミーのパンタグラフ。

▲車体後部のパーキングブレーキ兼キルスイッチ。
 テックンはゴムタイヤ走行の2軸車で、電源は軌道脇のレールからとります。屋上にはパンタグラフがついていますがこれはダミーで、トンネルなど車両限界の厳しいところでは架線(のようなもの)を上に張ってパンタグラフを下げています。動力は実験していないので推測するしかないのですが、直流直巻モータをギアで減速している感じです。車体の左側後部にはパーキングブレーキ兼キルスイッチがついており、このレバーを作動させておけば回路を構成できず、列車が動かないようにできるようです。
 運転台は加速/ブレーキを指令するハンドルと警笛、ベルの2ボタン。メーター類は速度計(実速度の表示ではない)と時計の2種類です。ハンドルにはノッチが刻まれておらず、倒した角度に応じて電圧が変わる可変抵抗を搭載している模様。惰性走行が多少聞くのでモータは直巻モータと推測されます。
 車両は全部で5台。カラーは101・102号車が緑、103号車が黄、104・105号車が赤です。
▲集電は軌道脇のレールからとります。

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