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3200形
 海沿いを走る宮城電鉄において、塩害による車体の腐食は頭の痛い問題であった。1975年に製造されたセミステンレスの2400形、1979年に製造されたアルミボディの2800形は腐食にめっぽう強く、軽合金の優位性は宮城電鉄でも古くから認識されていた。
 ステンレスとアルミの比較においても、2600形でオールステンレス車を投入して2800形と比較したところ、静粛性においてアルミカーが有利であることは宮電としてもわかっていたのだが、アルミ車両は価格面で折り合いがつかず、2800形以外はステンレスカーでの製造を続けていた。
 ところが軽量安価(当社比)なアルミのダブルスキン構造が日本車輌より提案され、価格との折り合いもつきそうという判断から2006年より製造が始まったのが3200形アルミカーだ。
 車体は2800形以来のアルミボディ。ただし2800形の押し出し財を多用した構造からダブルスキン構造となり、同一質量に対して車体強度の向上が図られている。
 正面はアルミの削り出しで造られている。NCで自在に削り出せるので調子に乗って流線型にしてしまったが、これはあくまでも地下区間での列車風低減が目的であって、決して企画者の趣味でやったものではない。そもそもこんなことをするから車両価格が……。

宮電の標準車両として練りこまれたアルミカー3200形。しかしその計画は東日本大震災によって潰えてしまった。

 それはそれとして3200形は宮電の標準車両として育てる意図があったため、2両つなぎ・4両つなぎいずれの構成にも共通性を持たせるため、4M1Cの単M構成となっている。
 すなわち、4両つなぎがモハ3221+サハ3271+モハ3321+クハ3371、2両つなぎがモハ3201+クハ3251という構成。モハ3321・サハ3271はそれぞれモハ3221・クハ3271から運転台がなくなっただけで、機器構成はM車とT車の2種類にシンプルに分けられている。つまり2両つなぎの編成も4M1Cの1コントとなるわけだ。
 1コント運転はVVVF試験車2600形で散々やらかした、空転によるHB作動の悪夢が思い起こされる。しかも3200形はギアリングを7.07でやるつもりでいるためなおさら空転に対してはシビアになる。
 そこで東洋電機は、速度センサレスベクトル制御および外乱オブザーバによる空転・再粘着制御を提案。フィードフォワード制御による入力とインバータ部の適切な推定式によりすべり速度0.1km/hの接線力をキープする制御を行なうことで解決している。
 これはコンピュータの計算速度の劇的向上によって可能となった技術で、製造当時から5年前ではまず考えられなかった制御であった。
 コントローラはATR-H4195-RG638、モータはTDK-6335Aで出力は195kwと大きくとっている。これをギアリング7.07で駆動するため、低速ではジャークをかけて空転を防止する必要がある。そこで前述のフィードフォワード制御によって微小空転を予測し、推定式によってトルク制御をおこなっている。
 TDK-6336Aモータは6,000rpまで伸びるいかにも東洋電機らしい高回転モータで、ギアリング7.07、1M1Tの定員250%条件において90km/hで14kNのトルクを維持できる。すなわち加速力1.6km/h/sであり、最高速度100km/hの宮電にとっては経済的な性能となっている。
 台車は日本車輌製のND-970X。物々しい番号の台車だが、これは日本車輌が高速列車用に試作した台車のため、Xが着いているものと思われる。

軸箱内側に付いたゴムブッシュが特徴のND-970X。これ以降宮電の標準台車として愛用される。ヨーダンパなしで自砺振動が防止できる点が魅力だ。

 台車自体は軸梁式のボルスタレス台車であるが、走行安定性を確保するために車輪内方にゴムブッシュを取り付けて軸箱支持を行なっている。海岸沿いを走行し、地盤のあまりよくない宮電において、ヨーダンパを用いずい自砺振動の防止を図れるという触れ込みは魅力的だった。
 結果実に安定した性能を見せ、以来宮電の標準台車として3800形・3600形などにも採用されている。価格はちょっとお高いものの、十分『元の取れる』台車である。
 3200形は2005年に4連・2連が各1本ずつ造られたのを皮切りに、2008年までに4連・2連各5本が造られた。その後は3800形の製造のためいったん3200形の製造は打ち切られたが、東日本大震災で3272編成が被災。その後の製造は価格を抑えた3600形・3400形に移行したため、宮電標準車としての夢は潰え、総数は30両にとどまった。
 なお、被災した3272編成は損傷の酷いクハ3372+モハ3322を廃車し、9000形と同等のボディで代替新造している。そのため、3272編成のみ石巻側2両と仙台側2両で車体形状が異なっている。

震災で被災した3272編成は、9000形のボディで代替新造。3200形はアルミカーだが、復旧車であるクハ3372+モハ3322はステンレスボディとなった。

右がアルミボディのサハ3272、左がステンレスボディでの復旧車モハ3322。9000形のボディは震災復旧を急ぐため天井に風洞がない。そのためコンタが3200形と異なるほか、ラインデリアが不要な分散冷房となっている。
サマンサ 2017
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