index.html
 

9000形

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、宮城電鉄にも多大な被害をもたらした。沿岸部を走る区間では津波の被害により22両が被災。復旧の際に深刻な車両不足に陥ることは明白だった。
 そこで、緊急に車両の投入が必要となり、2011年10月より緊急的に3編成が作られたのが9000形だ。3編成12両では所要数に足りないが、のこりの10両のうち8両は地下鉄直通用3800形が被災したため3800形を代替新造。あまりの2両は4両つなぎの3200形のうち2両を復旧し、2両を代替新造したものだ。
 9000形はとにかく可及的速やかに車両が必要なことから、日本車輌でもっとも迅速に造れるデザインというオーダーで発注された。そこで日本車輌はブロック工法での新造を提案し、承認された。
 ブロック工法は側面をたとえば、窓は窓エリア、ドアはドアエリアなどとバラバラに造り、最後に定板上で溶接する。そのため製造に広いスペースを必要とせず、また溶接の際に寸法を再検討できるので公差管理が若干甘くても問題がないため、低価格かつスピーディーな製造が可能だ。
 宮電としては静かでかっこいいアルミカーを標準としたかったが、未曾有の大災害の前にはそんなのんきなことは言ってられなかった。

新車搬入は通常なら日車豊川から仙台港まで甲種輸送で運び、そこから塩釜工場に回送するルートを取るが、震災で鉄道線が随所で寸断。さらには塩釜工場が被災したため、9000形はトレーラーで福住車庫へ搬入。ここで簡単な整備を受けて営業に投入した。

 正面形状も納期最優先ということで平板の組み合わせ。そして工数のかかるパノラミックウインドをやめて、側面に精密停車用の小窓を設けるというデザインになった。三次曲面のガラスを作る手間を省略したものだがさすがにこの窓は評判が悪く、後継の3600形ではブロック工法は引き継がれたものの正面形状は3000形と同じものに戻されている。世の中にはパノラミックウインドではない車両もたくさんあるのだが……。
 工数の簡略化は車内設備にも及んでおり、風洞・ラインデリアの設置を省略するため、屋上には廃車発生品の12,000kcal分散冷房を4台装備としている。冷却能力に問題はないものの、夏場はやはり冷えかたにムラが発生してしまっている。
 パンタグラフも2800形の発生品を流用。M車に各1台の装備となっている。
 システムも納期優先で、クハ9051+モハ9001の2両を1ユニットとして、これを背中合わせにつなぐデザインとして車種の増加を抑えている。
 ただし、単純に背中合わせにすると床下機器が反転してしまって整備の際に問題(宮電では電気系の機器を山側に配置する原則がある)なので、クハ9051+モハ9001+モハ9101+クハ9151のうち、91××の車両は車体の向きのみ反転、床下機器は90××と向きをそろえている。
 コントローラは3200形と同じATR-H4195-RG638、モータはTDK-6335-Dで、これをギアリング7.07で駆動する点も変わらない。当初は価格を抑えるために2800形の機器流用も考えたが、30年前の技術で作られたAFEチョッパ制御の電子部品を新規に調達することは不可能。代替部品を調達して再設計するくらいならVVVFを新造したほうが結果的にお得であると東洋電機から「強い説得」を受けてVVVF制御となった。

納期と価格を優先した結果、パノラミックウインドがオミットされてしまった9000形。精密停車対応の小窓はあるが、斜め前の視界が確保できないため乗務員の評判は芳しくない。

 結果としてこれは間違っていなかったと宮電側も思っているが、のちに東洋電機にその本意を聞いたところ、在京民鉄でAFEチョッパをいまだ使っている事業者に散々苦労させられており、同じことを宮電で起こしたくなかった、とのこと。AFEチョッパをいまだに使っている在京民鉄が一体どこなのかはさておいて、機器メーカーの苦悩が垣間見える一幕ではある。
 台車はND-970X。これは宮電がたいそうお気に入りのようで、多少お金がかかってもよいのでタンデム台車を使いたいという「強い説得」が日本車輌側にあったとのこと。
 9000形は震災の代替新造として3編成が造られたのちは、正面を改良した3600形に製造が切り替わってしまった。9000というイレギュラーな番号からもイレギュラーな扱いであることがわかるが、宮電が廃止になってもおかしくないほどの未曾有の災害において、立派に大役を果たしたことは間違いない。
 9000形はパノラミックウインドでないこと以外は他車と同等の性能を持っているので、〈レッドトップ〉の一員として他の4両つなぎと共通の運用に入っている。観光シーズンとなると松島特急が臨時特急として運転されるが、たいていはこの9000形が抜擢される。この理由を運行担当に聞いたところ、「停車駅が少ないので、パノラミックウインドではない9000形でも乗務員のストレスが少ないため」とのこと。
 宮電のパノラミックウインドへの偏愛は相当なものだ。

松島特急は9000形がほぼ専属で使われる。性能面では地下鉄直通運用以外問題なくこなせるのだが、「斜め前が見えない」というのは相当なストレスのようだ。
サマンサ 2017
dan564@gmail.com /サマンサのTumblr
inserted by FC2 system