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3820形

 1992年にJR石巻線の女川駅から宮城電鉄に直通し、仙台中心部まで60分以内で結ぶ特急列車の運行が、宮城県・女川町および通産省(当時)から提案された。
 宮城電鉄としては営業エリア拡大のチャンスでもあり前向きに検討していたが、石巻〜女川間は非電化で宮城電鉄の電車は直通できない。さりとて気動車は仙台市交通局や仙台花京院〜仙台原町の地下線に走らせることは難しく、計画が棚上げになっていた。
 しかし、蓄電技術が2010年代に入ると急速に進歩し、床下にバッテリを吊って石巻〜女川を往復できるくらいの走行はできる見通しが立ち、3800形を ベースに蓄電池を搭載した3820形が2016年に完成。同年7月のダイヤ改正から北仙台〜女川間の直通特急で運行を始めた。
 車体外観は3800形と大きくは変わらないが、蓄電車両をアピールする青と緑のグラデーション帯が窓下に入っているのが外観上のポイントとなる。また、クハ3820型には充電用のパンタグラフがつき、クハ3820・3920の床下にはそれぞれ200kWh相当の蓄電池を吊り下げている。
 蓄電池への充電は仙台〜石巻間走行中に行い、回生電流もコンバータを通して蓄電池にためられる。

クハ3820・クハ3920には蓄電池が吊り下げられる。蓄電池箱の右にある白い箱はCB(サーキットブレーカ)。また、クハ3820には充電用のパンタグラフを装備(画像左上)。また、ガラス越しに見えるように、両先頭車はクロスシートとなっている。

 また、女川駅には急速充電装置を設置し、停車中に急速充電を行うことにしている。女川駅ではおおむね5分程度、80%充電を行うことで石巻駅までの走行電力を確保できるが、急速充電は大電流によって行うため充電用パンタグラフは摺り板(走行に使わず架線をこすらないので摺り板というのも変だが)を強化し、集電容量を大きく取っている。
 3820形を造るにあたって問題となったのは車両質量だ。仙台市への乗り入れ協定により、1両あたりの質量は37t以下とする必要がある。そのため機器の集約や小型化を行い、クハもモハもかろうじて37tに抑えることができた。しかし座席は両先頭車が回転クロスシートとなったものの、質量の関係から中間車はロングシートとせざるを得なかった。
 コントローラはATR-H4200-RG638、モータはTDK-6151M。これをギアリング6.53で駆動する。モータ出力が3800形よりも大きくなっているのは車両質量の増加分をカバーするためで、起動抵抗が最大となるゼロ速度において28kNを確保する必要があったためだ。
 これによって54km/hまでの加速力3.0km/hを確保する一方、最高速度130km/hに対応(営業速度は110km/h)しているが、蓄電池での走行は出力電圧が630Vしかなく、インバータを通すと三相440Vとなってしまい、架線走行時の1150Vの半減以下という厳しい状態となる。そのためゼロ速度からの起動加速も20kNを確保するのがやっとという有様で、34km/hまでの加速力1.6km/h/s、最高速度も100m/h(認可速度85km/h)までの性能ダウンを余儀なくされてしまっている。
 現在仙台青葉通り〜女川間の所要時間は63分だが、宮電としては非電化区間での性能アップで60分をきりたいとしている。しかし石巻線は線路規格が低く、85km/h以上の速度向上が難しいのが現状だ。

女川駅でパンタグラフを上げて充電中の3820形。急速充電を行うため架線は剛体架線を使用。パンタグラフもスライダを大電流対応型としている。

 インテリア面で特筆すべきは1号車と4号車が1800形以来のクロスシートとなったことだろう。これは女川特急が60分を越える所要時間となること、石巻・女川観光の需要にも応えたいという女川町の強い意向によって実現したものだ。
 これまでかたくなにクロスシートを拒んできた宮電がどういう風の吹き回しだと思うかもしれないが、答えは簡単で3820形の製造費や女川駅の充電設備の一部を女川町が負担しているためだ。スポンサーの以降には逆らえない、世の中の真理のひとつであろう。
 とにもかくにも宮電にクロスシートが復活したわけだが、それでもラッシュ時にはクロスシートは無理があるということで、天龍工業謹製のデュアルシートを装備。ラッシュ時はロングシートにして運用される。
 なお、仙台市はもともとクロスシートを想定したデザインの地下鉄を走らせているくらいなので、車両質量37t以下であればクロスシートだろうがロングシートだろうがかまわない、とされた。
 1820形は2編成が製造され、通常1運用が女川特急の運用に組み込まれ、検査等がない場合はもう1編成も仙石特急・塩釜急行などに使われる。なお、平日ラッシュ時以外は女川特急以外の運用でもデュアルシート車はクロスシートで使われる。
 女川特急は設定以来好評で増発が望まれているが、車両価格が3800形の2倍近くするため、なかなか増備に踏み切れないのが悩みだ。

パンタグラフを下げて旧北上川を渡る3820形女川特急。蓄電池容量の関係で非電化区間では性能が大きく下がってしまうが、女川から乗り換えなしで仙台中心部までアクセスできるメリットは大きい。現在女川特急は6往復が運行されているが、将来は毎時1本程度まで増発したいとしている。

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