六甲電車

 
六甲山地に作られたニュータウンを見上げて神戸に向かう2000形〈船坂〜松尾橋〉
高速住宅を見上げ、神戸へ向かう2000形〈船坂〜松尾橋〉

2000形(クローブレード)
 第2系統の特急を中心に活躍していた1000形は2ドアクロスシート車で乗降性に難があったため、オール3ドアの特急用車両として2005年3月に、9500形以来10年ぶりの新車として登場したのが2000形〈クローブレード〉だ。このペットネームは立ちはだかる六甲山をシャープな牙で完膚なきまでに制覇するという意味合いがこめられている。この名前に秘められた思いにもあるように、2000形は競合する阪急電鉄今津線・神戸本線に対し、線形で不利な六甲電車が起死回生を込めて送り出したとも言われた車両で、先代の1000形に続いて一部車両(展望車・2号車・4号車/2016年1月からは1・6号車および展望席以外)をクロスシートにしたほか、六甲電車では初めてとなる前面展望構造を採用したことで話題となった。
 編成は両端を展望車とする5両(6両)連接で、すべての車両が電動車となっているのは他の形式と変わらないが、特急として十分な性能を求めるためにこれまでの車両に比べ若干異なる味付けが行われている。
 コントローラはMAV-184-15VRH。出力180キロワットのMB-5130Aモータを1コントローラあたり4基を並列接続する。加速性能は特急用ということで3.0km/h/sと他の系列に比べやや低くしているが、モータのパワーを40‰時の登坂性能と高速性能に振っているためである。
 MB-5130Aモータの特性は、これまで同様低速側のトルクを太らせつつも、定格回転数を高くとって下り勾配時の回生ブレーキに対応している。端子電圧は1,150V、定格電流67A(高加速モードで115A)、定格回転数3,000rpm。これをギアリング6.53で回し、上り40‰での均衡速度95km/h、同下り85km/hを実現している。なお、この形式では抑速ブレーキは搭載していないが、N位置の次位にあるNB(ノッチバック)ノッチに指令すると定速度走行ができるようになっている。
 運転台は二階席にあげられ窮屈と運転士の評判はいまひとつ。マスコン・ブレーキハンドルは横軸式のツーハンドルとなり、メーター類はグラスコクピットとしてできる限り機器を集約し、スペースを稼いでいる。
 客室から乗務員室への乗り込みは、車掌室から梯子を使って行うもので、他の車両に比べ乗務員交代に時間がかかることから、2000形の運用は他の形式よりも折り返し時間に余裕がとられている。
 2000形の駆動方式は従来車両同様WNドライブだが、この形式から低騒音バックラッシタイプを採用している。台車はシュリーレン台車のKD-330Ac。1500形以来基本設計は変わらないが、この台車が六甲電車には最もマッチしていることの証。軸ばねを8本のコイルばねでがっちりと押さえ込み、オイルダンパで振動を減衰するため乗り心地はきわめて良好だ。
 ブレーキは純電気ブレーキつきのMBS-R。全軸駆動なのでT車遅れ込めブレーキといった「小細工」が不要なのできわめてシンプル。とはいえ下り勾配で回生ブレーキが機能しなくなることを考慮し、大容量のエアタンクと低騒音型のMBUスクロールコンプレッサを編成内に2基装備している。MBUコンプレッサはこれまで六甲電車が愛用していたHB-2000に比べ低騒音で車内の静粛性向上に一役買っている。しかし、極ごく一部の乗務員からは「コンプレッサらしくない」との声も。
 また、停電で回生ブレーキが落ちた場合はブレーキハンドルを「非常」位置に持っていくか、非常電制ボタンを押下することで非常電制がかかる。このため各コントローラごとにブレーキ用の抵抗器を装備しているが、これの重さがなかなかのもので六甲電車の「足かせ」となっている面もある。
とはいえ、安全にはかえられないのだ。
 補助電源装置および車両マネジメントシステムは2・4号車(6両つなぎは5号車)に搭載。各車両3両分の電源を供給できる。
中間車と展望席はクロスシート
展望席と平屋中間車は集団見合い式の固定クロスシート。ダブルデッカー車はボックス式固定シート。
展望席を除いた先頭車はロングシート。
先頭車の展望席を除いた客席はロングシート。どちらがお好み?

 車体は9500形・1700形を除き六甲電車の標準となったアルミボディ。中間車の重量を22tに抑えるためボディはシングルスキン構造となっている。窓は軽量化を志向しているためすべて固定窓で、屋上には有事の際に備えた非常換気装置が取り付けられている。冷房能力は37,000kcalでラインデリアにより均一な送風ができるようになっている。
 座席は展望席と中間車が固定クロスシート、先頭車がロングシートとなっている。ロングシートは座面奥行き510mm、座面高さ400mm、ひとりあたりの幅450mmとかけ心地を重視しているが、クロスシートはスペースの関係から着座位置をある程度犠牲にせざるを得ず、座面奥行き460mm、座面高さ430mm、座面幅440mmとロングシートよりも狭くなっている。なお、背面トルソ角は105度をなんとか確保したものの、シートピッチは905mmとなっていていかにも苦しい。これは理想的なトルソ角をとるとシートピッチの拡大は避けられず、かといってドア横のスペースを食いつぶすことはラッシュ時において致命的なことからドア横400mmの空間を確保するための苦肉の策である。
 展望席にいたってはもっと苦しく、トルソ角100度、シートピッチ810mmまで詰められている。しかしこれに限っては座席定員が増加しているのでクロスシート本来の役割を担っているともいえるだろう。
 ダブルデッカー車2060型はボックス式の固定シート。ボックス長さは1850mmとし、トルソ角105度、背面高さは720mm、座面奥行きは590mmをおごっている。もっとも、JRなどよりも車高が250mm低い六甲電車でダブルデッカーはたいへん厳しい設計となり、特に通路の遮音性を確保できず、吸音のみで対応するといった苦しい設計も伺える。
 このように、先代の特急型1000形と比べるとややグレードダウンしたインテリアゆえに、塗装も特急用の赤+白とならず、一般車と同じ赤+黄になってしまったのではないかと推測する向きもあるが、真相は闇の中である。
 2000形の運用は、第2系統の海岸通〜元町〜宝塚の特急運用および能勢電鉄直通特急にほぼ限定されている。性能上は他の路線も走れるし、山上の街駅のホームドアにも対応しているものの、運転台のつくりの問題から折り返し時間にある程度余裕のある運用にしか入ることができないため、他の系統に乗り入れることはめったにない。
 2000形は子供たちを中心に大人気だが、乗務員からは取り回しの点で評判が悪く、ダイヤの面でも足かせが生じているため、所要数の14編成が揃った段階で製造を終了し、一般車両の置き換えは展望席のないオールロングシートの2500形で行うこととなった。

2016年1月から順次組み込まれるダブルデッカー車両2060型〈有馬ラウンジ〉。「神戸・宝塚から気分は温泉旅館」をコンセプトとしてる。〈六甲車庫〉

 登場から10年を経過した2016年1月より、有馬温泉の魅力向上と特急の座席数増加を企図して、3号車にダブルデッカー車両〈有馬ラウンジ〉が連結されることになった。この車両は「神戸・宝塚から温泉気分」をコンセプトに、温泉旅館のロビー気分でくつろいでもらうことを意図した座席を用意しているのが特徴。
 座席数の確保が至上命題なので2060型にはドアがなく、乗降は2・4号車のドアを利用する。そのかわり座席はボックス長1850mmと贅沢に取ったにもかかわらず64席を確保。温泉客だけでなく能勢電鉄沿線からの快適通勤にも寄与することを期待している。

新緑のトンネルを突き抜ける2000形特急。船坂トンネルから有馬第一トンネルまで約7秒間のパノラマが展望席に広がる。〈松尾橋〜瑞宝寺〉


−コラム:直通特急の話− 2000形
阪急電鉄所属の第14編成。能勢電・阪急所属車は上下の帯がマルーンになっている。〈能勢電鉄鼓滝〜多田〉

 六甲電車の特急は、おおむね毎時2本が阪急電鉄宝塚本線を経由して能勢電鉄の日生中央・妙見口まで直通運転をおこなっている。車両はすべて2000形で、一見阪急や能勢電鉄の電車は乗り入れていないように見えるが、相互乗り入れを開始した際、14編成ある2000形のうち4編成を能勢電鉄所有、2編成を阪急電鉄所有とし、走行距離を按分しながら運用することで各事業者間のお金のやり取りを相殺している。
 具体的には2001〜2008編成が六甲電車、2009〜2012編成が能勢電鉄、2013・2014編成が阪急電鉄の所有となっており、能勢電鉄・阪急電鉄所有車両は上下の帯がマルーン(六甲電車所属は黒)になっている点と、各社のロゴマークがR.E.E.R.ロゴに代わって入っているので見た目にもすぐわかる。
 なお、車両整備等は六甲電鉄が各社より委託されておこなっているので、運用自体は特に固定されておらず、ローテーションで回されている。似たような事例は東武鉄道・野岩鉄道・会津鉄道の6050系にも見られる。

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サマンサ 2015
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