六甲電車

 

9500形を従え三宮へ向かう1000形通勤急行。〈松尾橋〉

1000形〈リンクス〉
 1985年に100形〈センチュリオン〉の代替として登場した特急用車両。これまで六甲電車は3両連接が基本だったが、とりあえず特急停車駅のみ先行して5両連接に対応したため5両連接で登場した初めての形式となる。2005年に2000形〈クローブレード〉が就役すると今度は2両連接に短縮され、現在はラッシュ時の増結用および金仙寺湖線の普通電車として運用されている。
 1000形は軽量化対策として六甲電車でははじめてアルミボディを採用。編成重量を従来車両より3t以上の軽量化を果たしている。そのためモータ出力は700形や800形よりも低出力の150Kwでありながら、加速性能は従来車並みの3.0km/h/s、40‰での均衡速度も95km/hとなっている。
 制御方式は800形で採用されたAVFチョッパ制御を続けて使用したかったところだが価格面で折り合いがつかず、特急用ということで全界磁までの衝動には目をつぶり1200形同様の界磁チョッパ制御を採用。それでもコンパウンドモータを使うため全界磁以降はゼロアンペア制御が可能となり、弱界磁段でのノッチングが解消された。60km/h以降での速度制御を頻繁に行なう六甲電車の特急としては悪くない選択だし、機器構成もAVFチョッパよりはシンプルで分かりやすく、故障時にメーカー修理待ち状態となる800形よりも稼働率は高く、結果として「安くて稼げる利益率のよい」電車となっている。
 搭載するMB-3290Acモータは端子電圧500V、電流320Aで定格回転数1,250rpmという、低速トルクに全振りしたような設計。これをギアリング5.6で回す。これは高価な半導体を使うコントをできるだけ減らすための措置で、5両つなぎでも3両つなぎと同じ数のコントで走らせるためのデザインとなっている。すなわちこれまでは4モータ1コントだったのを6モータ1コント永久直列接続とし、最終段からは弱め界磁8%まで任意の速度調整が可能となっている。なお、コントローラはFCM-206-15RDHで直列13段、並列8段、弱め界磁無段階。
 界磁チョッパ制御は逆起電力を界磁制御できるため、中速域以上の速度では回生ブレーキにたいへん有利な構造となり、連続下り勾配を持つ六甲電車にふさわしいセッティングとなった。一方で低速では800形ほどではないにせよ大電流を必要とするため、熱対策にはことのほか配慮されているほか、回生ブレーキの転流失敗対策として、パンタグラフは1コント2基装備となっている。

800形(左)・1200形ではセンターピラーが乗務員から不評だったので、1000形(右)ではセンターピラーを助手席側にオフセット。外観上の雰囲気も変化した。〈船坂車庫〉

 台車は六甲電車の御用達となっているダイレクトマウント式空気ばねのシュリーレン台車KD-85。これまで勾配区間での座屈対策としてかたくなに空気ばね台車の導入を拒んでいた六甲電車が、アルミボディで軽量化を果たし、台車への重量配分が軽減されたことから1000形で空気ばね台車を初めて採用した。乗り心地は従来形式よりも大幅にやわらかくなり、静粛性の向上に一役買っている。愛称の〈リンクス(山猫)〉もこのしなやかかつ静かな乗り心地から命名されている。
 台車が空気ばねになったためコンプレッサの役割も重要になったことから、六甲電車では初採用となるHB-2000コンプレッサを中間車(のちの3号車)に装備。2008年に2000形が登場するまでの六甲電車標準コンプレッサとなる。
 補助電源装置は離線リスクを考えSIVの採用はならず、BLMGを1・5号車に装備している。
 ブレーキは応答性の高いMBS-Rを採用。全軸駆動なのでT車遅れ混みブレーキはなく高い応答性とあわせてブレーキの安定性を確保。回生ブレーキを採用しているものの、回生失効対策として発電ブレーキも装備している。回生ブレーキの絞込みが発生したり、離線(1コント2パンタなのでまずおこらないが)などでゼロアンペア制御が切れた場合などは発電ブレーキに切り替わる。これによって連続下り勾配においても安定したブレーキが約束されるが、この場合はコンパウンドモータならではの滑らかなブレーキというわけには行かない。なお現在は地上側に回生電力吸収装置を設置してはいるものの、停電時に備え発電ブレーキは非常電制装置として存置している。
 空気ブレーキは鋳鉄両抱き式。高速域は発電/回生ブレーキに任せる前提で、天候変化に強い鋳鉄シューを採用。踏面が磨かれてしまうレジンシューは約8キロに及ぶ連続下り勾配に対応するには不安が残るためだ。なお、1000形から下り40‰の最高速度が70km/hから85km/hに引き上げられ、700形以降の車両もそれに対応すべくブレーキてこ比などの変更が行われた。
 コンパウンドモータを採用したことで、これまで下り勾配で使っていた抑速ブレーキは装備していない。そのかわりNノッチの次位にあるNB(ノッチバック)ノッチを指令すると、界磁制御段(45km/h以上)で任意の定速度走行が可能となっている。もちろんゼロアンペア制御が効いているうちはショックレスに制御可能だ。

5連で特急運用についていた頃の1000形。スムースな走りとかけ心地のよい椅子を懐かしむファンは今も多い。〈船坂〜松尾橋〉

 車体は先頭車16m、中間車13mの六甲電車標準サイズ。扉は2ドアながら乗降性を考慮して幅1,400mmの両引き戸を採用。ドア間の座席はピッチ850mmの集団見合い方固定クロスシートとなっていたが、増結車両に改造した際ロングシートに改められている。このクロスシートは2000形のそれとは比べるのもおこがましいほど考え抜かれたデザインになっており、座面幅こそ450mmと標準的なものの、トルソ角105度、ランバーを深くとって座面奥行き550mmを実現。座面高さ400mm、背面高さも740mmという座席としての贅を追求したものとなっていた。
 なお、現在のロングシートは六甲電車の標準的なもので、座面高さ400mm、奥行き510mmとなっている。
 1000形は1985年から1987年の3年間で8編成が製造されたが、1995年の阪神・淡路大震災で1編成が第3六甲トンネル内で被災し廃車になり、以降7編成の陣容で海岸通〜宝塚間の特急を中心に使われてきたものの、2ドアクロスシートというデザインは現在の六甲電車になじまず、後継の3ドア特急2000形が登場すると入れ替わりに特急運用から撤退。うち5編成は2両連接ロングシートに改装され、朝はラッシュ時通勤急行の増結車両として、日中および休日は第5系統金仙寺湖線の小運転に使われている。なお、2両連接の場合はコントが1台となるため、他の車両と連結して2コント以上にしないと六甲山の勾配区間を運転できない。

1000形は日中、2連で5系統の船坂〜六甲球場前間に運用される。六甲遊園の観覧車『ロッコーSUN』が見えてきたら終点の六甲球場前はもうすぐ。〈下山口〜六甲球場前〉

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