六甲電車

 

阪急神戸本線をアンダークロスし、岩屋方面に向かう1500形。第1系統は神戸市内の縦方向の連絡線として活用される。〈王子公園〜岩屋〉

1500形〈バーテクサー〉
 1500形は1988年から1994年までの7年間に20編成が作られた車両。〈バーテクサー〉とは「頂点に達する者」という意味で、文字通り性能面での決定版として登場している。「頂点」の意味としては、六甲電車で初めてVVVFインバータ制御が採用された点があげられる。
 コントローラは三菱電機製MAP-174-15VH。出力165kwのMB-5023Acを1コントあたり4台制御する。この比類なきパワーとギアリング7.07のセッティングにより、40‰勾配から定員200%条件で2.5km/h/sでの起動を可能とし、六甲山の登坂に余裕ができた。これまで700形などが必死に後続の特急から逃げていたのが、1500形では余裕を持って有馬まで逃げ切れるようになった。
 もっともその代償として起動時に大電流を食うため、朝ラッシュ時に六甲山変電所が事故電流を誤検知するトラブルが頻発。有馬変電所を増設するまでの間は54km/hまではノッチ制限をかけて走っていたことを思い出す。

台車の次位にあるのがVVVFインバータ装置。六甲電車では800形での試用を経て1500形で本格的にVVVFインバータを採用するようになった。〈六甲工場〉

 台車は1000形のKD-85を基本にインダクションモータを取り付けられるように加工したKD-110Acシュリーレン台車。軸ばね部分はKD-85が乾式だったのに対し、1500形では湿式に戻っているのが特徴。メインテナンス面を考慮して800形〜1200形は乾式を採用していたが、1500形では乗り心地を重視して湿式に戻ったとのこと。特に路盤が貧弱な1系統では乗り心地に有意差を認めることができる。
 ブレーキはMBS-Rで回生ブレーキと定速度制御(5km/h以上の任意)が使える。コンパウンドモータの1000形などでも定速度制御が可能だが、コンパウンドモータの特製上制御段は25km/hより上、安定した制御を期待するなら45km/h程度より上が実用的だが、VVVF制御では制御段の下限が5km/hとなったため、たとえば濃霧時などは下り40‰勾配で15km/hのいわゆる「徐行運転」も可能となり、乗務員の負担が緩和された。
 ブレーキ装置のトラブルは六甲電車にとって致命的なものとなるため、回生ブレーキをメインで使用するにしても、空気ブレーキの装備は「最後の砦」として多重系の思想で守られている。コンプレッサはHB-2000型を編成内2基装備し、1基ダウンでも非常運転による運行継続が可能となっている。停電などで回生ブレーキが使えなくなった場合のことを考え、1コントローラに対し1基の非常電制を装備。架線電圧が検知できなくなった場合は非常電制で5km/hまで減速する。
 こういった装備が増えてくるため、軽量化は六甲電車において常に配慮しなくてはならない事柄だ。車体は1000形に続きアルミ押し出し材を使用したアルミボディ。これによって鋼体重量を2t程度軽くできるため、設計に自由度が生まれた。たとえば強制通風機の装備は軽量化によってなされたものだ。
 側面窓はバランサつきの一段下降窓。アルミボディにより腐食の心配がなくなったため、1000形以降2000形の登場まで一段下降窓が標準となった。
 車内設備は汎用型ということでオールロングシート。扉幅は1000形と同じ1,400mmの3ドア車となった。13メートルという短いボディ1/3にあたる4.6mがドアといういかにもラッシュ対応最優先のスタイルだが、1200形の1,300mm幅に比べてわずか100mmとはいえ、乗降性は確実によくなっている。
 座席はそれなりにかけ心地のいいものをおごっており、現在の六甲電車の標準となった座面高さ400mm、奥行き510mmの寸法は1500形が嚆矢だ。

殺風景といえば殺風景だが、機能的といえば機能的な1500形車内。VVVF制御となったため床下にトラップドアをつける必要がなくなり、静粛性が向上した。なお、鴨居のLED表示装置は後年つけられたもの。

 車内は1000形から始まった、白デコラと妻部マホガニーの組み合わせ。天井にはカバーつきの蛍光灯とラインデリアのづきだし口が一直線に並ぶ。空調は先頭車37,000kcal、中間車32,000kcalで強制通風装置付き。サーモスタット装備できめ細かく温度の調整ができるようになっている。
 1500形は20編成が作られたが、うち04・09・12編成の3本が阪神大震災で被災して廃車。01・02・03・05・06・07・08・10の8編成が2700形に改造されたため1500形として残るのは9編成。そのうち1511編成は5両中3両が被災したため9500形を2両新造、700形の被災車両から722号車を転用し二代目1661号車とし、1500形+元700形+9500形の変則編成となっている。
 1500形として残った車両は日中は1系統や3系統の普通電車に、ラッシュ時は通勤急行・通勤準急にも投入され幅広く活躍している。

震災復旧で変則編成を組む9508+1511編成。〈六甲山口〜六甲山〉
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サマンサ 2015
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