六甲電車

 

メモリー:完成したばかりの新線をゆく100形。〈山上の街〜電鉄有馬〉

100形〈センチュリオン〉
 1963年に電鉄有馬〜六甲山口間が開業し、宝塚〜神戸市内が一本につながることになったが、それを期に宝塚〜元町間に優等列車を走らせることとなった(それまでは宝塚地区、神戸地区とも普通列車のみ)。種別は「特急」と決まり専用車両が企画された。それが100形〈センチュリオン〉だ。
 もともと11形〈イレブン〉などは勾配運転を考慮したデザインとなっていたが、その分平坦線の性能は完全に見切っており、定格速度はわずか30.9キロ(定格895rpm/ギアリング4.69)。そのため、平坦線では弱め界磁65%を投入してもいいところ60km/hといった速度しか出せない。
 しかし100形では、40‰上り勾配の均衡速度80km/h、平坦線での最高速度100km/hが求められた。こうなると従来のつりかけ式では性能を両立できないため、高回転型のモータを使うことになる。
 100形が採用したモータは出力125kwのMB-3020Ac。これをギアリング6.06で駆動する。定格速度こそ11形と同じ30.9km/h(φ820条件)に過ぎないが、MB-3020モータはピークで4,400rpmまで回るため、最高速度110km/h程度まで引っ張ることが可能だ。もっとも、低速での大トルクと高速での高回転を両立したためモータの重量は720kgとたいへん重たいのが欠点といえば欠点だ。
 コントローラはABFM-154-15EDH。型番を見ればわかるように1C4Mとなっている。端子電圧375Vモータなので1C8Mのほうが発電ブレーキも有効に使えるのだが、3両連接の場合それではコントが1台になってしまう。つまり、1コント不動で運転継続が不可能になる懸念から、勾配線では必ず2コント以上での運転が定められている六甲電車においては1C4M×2コントという選択肢しか取りようがなかった。
 制御段は直列24段、50%弱め界磁1段となっており、永久直列制御のため先頭車にはずらりと抵抗器が並んでいる。抑速ブレーキは65km/h、45km/h、25km/h、非常電制の4段。これらコント回りをパッケージ化したことで、従来車に比べて制御系がたいへんコンパクトになったほか、連接車でユニット構成にした結果床下機器がこれまでの六甲電車に比べ大幅に整理されたことで、六甲電車の名物であった屋上に並んだ抑速用抵抗器は100形では見られなくなった。そのかわり中間2号車にはトレーラーとは思えないほどの機器がぎっしりと吊られている。
 ブレーキはA-RD。抑速段をのぞく停止ブレーキにおいては、初速45km/h以上で電空併用となり5km/h程度までかかる。なお、初速45km/h未満の場合は空気ブレーキのみで停止する。空気ブレーキは鋳鉄式の両抱きブレーキで、ブレーキシュー1個あたりの負担を軽減している。
 台車は六甲電車では初採用となるシュリーレン台車KD-13。これまでただの1両も新性能車の導入がなされず、イコライザにこだわり続けた(それだけ連続勾配は恐怖なのです)六甲電車が選んだのは、山岳路線で生まれたスイスのシュリーレン台車。軸ばねをオイルダンパで緩衝し、軸重のバランスを最適化してくれる構造に太鼓判を押した格好となった。
 また、車重が一点にかかる連結器というウィークポイントを解消するために連接車となった。これによって台車全体で重量を受け止めることができ、座屈のリスクを解消できた。
 一方で連接車は台車の数が少ないため軸重が過大となる傾向がある。100形でも軸重12t未満に抑えるため、車体は準張殻構造軽量車体とし、鋼体重量を軽減。側窓も上段下降・下段固定の2段窓として戸袋を作らない構造とした。デザインの段階では戸袋窓も廃止しようという案もあったが、さすがにそれは車内環境の面から好ましくないとのことで存置されたが、そのくらい車体の軽量化には力が入っている。軽量化が進んだ結果、その後MB-98Aモータの14m級電車である51形の車体更新で、2M1T編成でもそこそこの性能が出せる更新車200形〈フェザートレイン〉を作れたという余禄もあった。
 車内は集団見合い式固定クロスシートがピッチ900mmで並ぶ。当時の電車としては珍しい座席配置だが、これはスイスの登山電車に範を取ったといわれている。また、転換クロスシートやボックスシートよりもシートピッチを詰められる、すなわち座席定員を増やせるメリットもある。
 1963年のデビューから特急を中心に活躍してきたが、1980年代に入ると車幅が狭いことやクロスシート3両つなぎで収容力が小さいこと、軽量車体ゆえに冷房改造も困難なため、一部の機器は700形の5連化の際に流用されたほかは、1988年までに全廃された。

メモリー:1000形デビューの頃。1000形投入と入れ替わりで100形は準急・普通電車運用に転用された。〈紅葉丘〉
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