六甲電車

 

副標を掲げ、行楽通勤準急として六甲球場前に向かう9500形。〈六甲山口〜六甲山〉

9500形〈ストライクバック〉

 1995年1月の阪神・淡路大震災では六甲電車も全線に渡って大きな被害を受けた。被災車両も100両あまり発生し、そのうち40両ほどは台枠から破損したため廃車せざるを得なかった。
 全線復旧は可及的速やかに行なうこととして、被災廃車で不足する車両の製造も並行して行なうことなり、9500形7編成+2両が急遽企画され、製造された。愛称の〈ストライクバック〉は「逆襲」という意味。震災で大打撃を受けた六甲電車が、満身創痍の中から立ち上がり、傲慢な大自然に逆襲する決意を現している。
 ボディは六甲電車初のステンレスカーとなった。通常は近畿車輛でアルミボディの塗装車体が定番だったのだが、車両を急遽製造するため「即納可能」な車両メーカーをあたったところ、東急車輛(現総合車両製作所)に応じていただけたことから発注。納期最優先でのデザインとなっている。
 ボディの板厚はt1.5と、たいへん薄手の側板となっているが、強度に関しては他形式とまったく遜色ない。扉幅は六甲電車の標準である1400mmよりもやや狭い1300mm。たかが10mmではあるが、このわずかな差が薄板ながらも高い剛性感のポイントとなっている。
 インテリアに関しても六甲電車の標準となっているデコラとマホガニーの組み合わせではなく、グレーのパネルで構成されたものとなっているほか、ドアの内側の化粧板や蛍光灯カバーも省略されている。これも納期優先という考えから標準品を採用しているためだ。
 各部寸法もJR209系のそれに準じており、座面高さも六甲電車の標準より高い420mm、奥行きは逆に50mm長い560mmとなっている。座面幅は450mm。クッションがまるで効いていないため旅客の評判はいまひとつだが、メインテナンス性にはたいへん優れた座席で、以後の六甲電車の新型車両に多少なりとも影響を与えている。

コントは1C4MのGTO-VVVF。いわゆる「四畳半インバータ」で、1・3・5号車の車体中央に鎮座している。反対側にはフィルタリアクトルを設置。〈六甲工場〉

 足回りは1C4MのGTO-VVVFインバータ制御で、コントローラはMAP-194-15VRH。モータは190kwのMB-5061Ac。WNドライブでギアリングは6.53としている。1500形よりも若干馬力が向上しているが、これはギアリングを1500形の7.07から6.53に若干高速よりに振った分、低速トルクを補償するためだ。歯数にしてわずか2歯の違いだが、走行特性は大きく変わる。9500形は低速での唸りが1500形よりも大きいものの、54キロ以上の速度域に関しては1500形よりも伸びやかになっている。
 この変更は1500形の走行特性に不満があったわけではなく、1995年5月時点で「即納」できるモータがMB-5061Acだったという、きわめて消極的な理由から来ている。そしてMB-5061Acを1500形と似たような走行特性に味付けすべく、ギアリングを6.53とした次第。
 とはいえ、やはり特性が違うものは違うわけで、どちらかというと高速に強い9500形は積極的に朝夕は通勤急行・通勤準急の運用に入り、低速に強い1500形は1系統や3系統の普通電車に入ることが多い。もちろんランカーブ上は、どちらの運用も問題なくこなせるのだが。
 コンプレッサは被災車両や予備品から流用したHB-2000、補助電源装置はSIVではなくやはりこちらも予備品や廃車から流用したBLMGを搭載している。台車はKD-110Acだが、約半数の台車が被災廃車となった1500形からの流用となっている。パンタグラフも基本流用で、不足分のみひし形パンタグラフを新造している。
 ブレーキはMBS-Rで定速度制御つき。マスコンのN位置からさらに押し込むとNB(ノッチバック)ノッチとなり、NB投入時点の速度が維持される。また、ブレーキハンドル非常位置とNBノッチの組み合わせで非常電制がかかるようになっている。
 いろいろと流用が多い9500形だが、車両だけでなくインフラも甚大な被害を受けているため、限られた予算で最大限の効果をあげるには、機器の流用を積極的に行なう必要があったことはおさえておきたい。
 このように車体や内装品は汎用部品を使って安く手早くしたてているが、性能面では将来への禍根を残さないよう、平坦線54km/hまでの加速力3.5km/h/s、40‰上りの起動〜34km/hまで2.5km/h/s、最高速度110km/hを確保。鋼体重量がアルミカー並みに軽いため、無理なく性能を引き出すことができた。
 ところで、9500形のステンレスボディはJR209系のコンセプトである「寿命半分」コンセプトの車両だが、2003年から始まったの全般検査の結果外板に多少しわがよってはいるものの、車体強度の劣化は見られず、2011年の全般検査も同様にパスしている。使用しているうちに想像以上に「軽くて丈夫」なボディであることがわかっている。
 9500形はラッシュ時の通勤急行・通勤準急のほか、日中は主に1系統や3系統の普通電車に使われる。また、9508編成は被災し相手を失った1500形・700形と組んだ変則編成となっている。この9508編成に限り、廃車となった1500形の足回りを流用しているため、モータは165kwのMB-5023Ac、ギアリングも7.07としている。
 なお、近い将来BLMGのSIV化、VVVF装置の換装などが計画されている。

神戸市役所前ですれ違う9500形普通。製造から20年を経過したが現在でも1系統や3系統の主力として活躍。〈東公園〜市役所〉

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