六甲電車

 

六甲電車のバラエティ。左から1000形・2500形・2000形・9500形。〈船坂車両検査場〉

車両の概要
 六甲電鉄の旅客営業用車両は、2015年10月現在262両。このすべてが連接車であり電動車であることが大きな特徴といえる。これは、9キロに及ぶ40‰の勾配区間を持つ六甲電車では、何よりもトルクを路面に伝えなくてはならないため、あえて軸重を増やすために台車の数を減らしている。また、神戸市内は路面電車出自の急カーブが多く、特に海岸通と東公園のR39カーブは通常のボギー車ではオーバーハングが大きく曲がれないため、連接構造を採用せざるを得ない事情がある。
 このため、ラッシュ時に運行される5両+2両の7両つなぎの電車は、元町で折り返すか、三宮で2両を切り離して運転されるといった制約が生まれている。

朝に運転される7両つなぎの通勤急行。東公園ゆきの通勤急行は三宮で後部2両を切り離さなくてはならない。〈護国神社〉

運用の制約

 車両運用は大きく分けて特急・準急・そのほかの3つに分かれている。特急・通勤特急は2000形限定。日中の準急は運転曲線の問題から2500形・2700形の限定となっている。
 このほかシステム上の制約としては、宝塚〜六甲山口間は連続勾配でクリティカルな運転が要求されるため、2コント以上の編成を組まないと運転できない。たとえば1000形は2両つなぎで1コントだが、1000形単独で勾配区間を走ることはできず、かならず他の列車とつないで2コント以上で走らなくてはならない。これは営業列車に限らず回送・配給列車でも同様だ。
 そのため救援車である911形は、1C6M1コントで走れるところを、死重となることを承知で予備のコントを搭載し、2コントとして回路を構成している。
 また、第3六甲トンネル内にある山上の街駅は、保安の観点からホームドアを設置している。そのため、ホームドアと車両のドアの配置が合わない車両(700形・800形・1000形・1200形・1700形)は停車できないため、当駅に停車する通勤準急・準急・普通の運用には入れないといった制約もある。
 このように、編成そのものは5両と2両の2種類しかないにもかかわらず、さまざまな制約があるために車両運用の担当は毎度頭を抱えているのが現状だ。

山上の街駅に停車する9500形。ホームドアの関係で700形・800形・1000形・1200形・1700形は山上の街駅停車の列車に充当できない。〈山上の街〉

システム  六甲電車の車両は山岳線を走るという特性から、すべての車両に抑速ブレーキないし定速度機構がついており、一定の速度で勾配を下ることができるようになっている。抑速ブレーキはシリースモータの700形・800形に、それ以外のコンパウンドモータ・インダクションモータの車両は定速度機構を装備している。
 抑速ブレーキはマスコンハンドルを逆回転させることで作動。1〜4ノッチがあり4ノッチは非常電制として作用する。
 定速度機構はNノッチの次位にある通称NB(ノッチバック)ノッチで、NBノッチを指令するとコンパウンドモータ車は45キロ以上、インダクションモータ車は25キロ以上で定速度走行が可能となる。それ以下の場合はNノッチと同じ扱いとなる。非常電制は別に用意された非常電制ボタンを押下することで作動する。
 機器類は伝統的に三菱電機の製品を採用しており、駆動方式もそれに従いWNドライブとなっている。これは昭和初期、三菱電機が山岳路線向けに低回転大トルクのモータを製造・納品していたことに由来する。その特性は六甲電車の線形にたいへん合致しており、MB-98AやMB-113Fといったモータを50年近く使い続けていた実績がある。
 現代の技術であれば三菱電機に限らず他車のモータでも十分なトルクを発生できるだろうし、TDドライブでもトルク伝達に不安があるというわけではないが、「問題ない部分はいじらない」というエンジニアリングの基本から、今でも三菱電機+WNドライブの組み合わせを採用している。

正面形状
 関西民鉄というと貫通型の正面形状が多いが、六甲電車では最初期の11形をのぞいてすべて非貫通で登場している。これは六甲電車の場合連接車が主力で編成がほぼ固定されているため、増結・解結の機会が少ないことと、六甲山頂周辺は気温が低く、特に冬季は正面の貫通扉から隙間風が入り、11形は乗務員から甚だ不評だったため(そのため事故復旧の11形17号車は非貫通で登場した)といった理由がある。
 また、六甲山はしばしば濃霧に見舞われるため、800形以降はヘッドライトは上下2灯ずつの計4灯とし、前方視界を確保している。

貫通型で乗務員の評判が悪かった11形。しかし性能面では勾配向きなため、地上におろされることなく晩年まで山越えの運用で使われた。〈松尾橋〜瑞宝寺〉
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サマンサ 2015
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