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300形電車
製造期間:1983年~1988年製造 
活躍期間:1983年~現在
製造両数:10両 廃車:なし
車両寸法:13,100×2,116×3,650mm 空車質量:16.1t
モータ:TDK-535D(45kW/600V/90A/1,400kg)
ギアリング:16:57=3.56 駆動方式:つりかけ 制御方式:直接制御
最高速度:50㎞/h

 楽園軌道の近代化を図るため、1983年に一挙10両を投入し、森林鉄道上がりの楽園軌道を一気に近代的にした立役者として現在も10両すべてが活躍している。
 車体は海岸沿いを走ることから塩害対策としてt2.4のスチール板で構成されている。しかし板厚のある鋼板を使うということは車両質量の増加を招くため好ましくない。
 そこで、徹底した軽量化を図るため、窓は下段固定・上段下降のユニット窓として戸袋を廃止。正面も固定窓として構造の簡素化を図っている。ところが、常夏の森島で固定窓にするということは空気の逃げ場がなくなると同じ意味であり、冷房の搭載がなかったころはまるでビニルハウスの中にいるような蒸し暑さで乗務員からの評判は最悪だった。
 しかたなく窓下に通風孔を設けたものの焼け石に水で、根本的な解決は1998年の冷房化まで約18年も放置されていた。
 また、762㎜ゲージという事情から重心を抑える必要があるため、方向幕の部分は自動車との接触による変形の心配が皆無なことからCFRPで構成されている。これによって車両質量は16tに抑えられており、線路規格の決して高いとは言えない楽園軌道でも安定した乗り心地を実現している。
 外観で特徴的な点は、運転台から見て左側のドアが折り戸で右側が引き戸になっている点だろう。これは1998年に冷房改造を行った際、重心の関係から冷房機を室内に設置することとなり、戸袋部分に冷房機を設置し、排気用のルーバー戸袋を埋めて設置した。
 こうなると引き戸とルーバーが干渉してしまうため折り戸にせざるを得なかったが、こんどは足元のステップと折り戸が干渉してしまう。そのため下660㎜は扉のない状態になるという、なんとも締まらない姿になってしまった。
 こういった野蛮な改造が許されるのも、年間平均気温が高い南国ゆえのおおらかさといえようか。北国であればこんな改造は許されないだろう。

折り戸を半分開けた300形。見ての通りステップと干渉するため、ステップ部分はドアがない。

 車体は新しくなったものの、メカニズムは旧態依然のダイレクトコントローラと抵抗制御。直列・並列各4段の8ノッチ。モータは東洋電機のTDK-535D(600V/90A/1,450㎏)をギアリング3.56(16:57)で駆動する。この性能は起動時に2,000㎏のトルクをかければ満車で2.8㎞/h/sを出せる性能を持っており、軽便路面電車としては十分な性能といえる。ただし応荷重装置を持っていないため、乗客数に応じたノッチ操作は運転士の感覚で行う必要はあるが。
 なお、駆動方式はナローゲージゆえに釣りかけ駆動となっている。
 当初はトレーラの牽引も考慮して4.21(14:59)を取っていたが、新設軌道での高速性能を確保(KL-8コントローラにはWFノッチを追加する余地がいないため)するためギアリングを変更している。
 現在トレーラーけん引は行っていないが、春になるとダイナマイトパインの輸送をB号系統で行う。この際貨車を連結するが通常は1両、長くてもせいぜい2両なうえ山を登る東行きは空車、荷物を積む西行きは基本下り勾配なのでトルク的には問題ない。
 ブレーキはオーソドックスなSM-3で、空気の供給源には当初DH-25を搭載していたが、現在は部品確保の観点からHB-2000を搭載している。しかし路面電車には少々過ぎた性能のCPで、性能を持て余している感は無きにしも非ずにみえる。
 なお、ダイナマイトパイン輸送の際、貨車と電車の間はドローバー接続であり、電気・空気系の接続は行わない。そのため貨車連結の際は空気ブレーキだけで は制動力に不安があるため、電制を併用して停止する。それでもダイナマイトパインを満載していると後ろからぐいぐい押されて信号停止などでは気をつかうと は運転士の弁。

ダイナマイトパイン輸送用貨車パ1をけん引する300形。電制とSM-3の空気ブレーキを絶妙にブレンドさせて、ショックレスで止められれば楽園軌道の運転士として一人前。

 台車はオール金属ばねのKD-230形台車を新造。軸重制限の大きかった海岸線での運行を考慮し、オールプレス構造の軽量台車をはいている。
 補助電源装置はとりあえず制御電源用にAC100Vを出力できればよかったので、当時は抵抗で降圧してから変圧するという野蛮な方法をとっていたが、冷房改造の際にAC200Vが必要となった(440Vではないのだよ…)ため、SIVを新調している。
 室内はオーソドックスなロングシート。車体幅が2,100㎜しかないため室内はたいへん狭い。座席定員はそれでも24名、総定員は70名を確保しており楽園軌道の単車の中では最大の輸送力を誇っている。そのため多客時は520形などが連結運転を行わざるを得ない混雑でも、300形は基本単車での運転となっている。もっとも、ダイレクトコントローラなので連結運転自体が不可能なのだが。
 300形は1998年から行われた冷房改造に合わせて車体の更新も行われ、現在も10両全車両がA・B・D・E号の各系統で主力として使われている。
 500形は高価ゆえに製造数を最小に絞っており、低価格版の520形は輸送力が小さいとあっていまだ主力の座にはなれておらず、これからもしばらくは300形が楽園軌道の顔として活躍すると思われる。
 しかし時代の要請はバリアフリーであり、それに対応しきれていない300形がいつまでも「でかい顔」をしているのは、楽園の案内役としてはいささか役不足であることは否定できないのもまた事実であろう。

リバイバルカラーとして登場時のカラーをまとう301号車。

性能的には申し分ない300形も、2段ステップによる乗降は現代のサービスとしては不適当と言わざるを得ない。しかし超低床車両は収容力に難があるため新車投入の方向性が見えないのが現状だ。
dan564@gmail.com /サマンサのTumblr
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