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500形電車
製造期間:2016年製造 
活躍期間:2016年~現在
製造両数:6両 廃車:なし
車両寸法:14,600×2,216×3,650mm 空車質量:25.5t
モータ:MB-7050AN(37.5kW/440V/116AA/1,200kg)×4
ギアリング:16:97=6.06 駆動方式:直角カルダン 制御方式:フルSiC-VVVF
最高速度:75㎞/h

 森島空港をB777級の大型機に対応するため、沖合展開で新空港を建設することになったが、空港と市街地が約20㎞離れることとなり空港アクセスをどうするかで問題となった。
 新空港の建設旺盛な需要によるものであり、すなわち空港アクセスには中量の交通機関がふさわしいということで楽園軌道の新線を建設することになったが、この新線で運用する車両として500形が企画された。
 システムそのものはアルナ車両のリトルダンサーA3だが、運行路線の事情から特殊な構造となっている部分も少なくない。
 建設費の都合で空港と市街地を結ぶトンネルは車体断面ギリギリの開口部で造られている。そのため緊急時に車両の前後からの脱出が可能なよう、正面には非常扉の設置を国土交通省から申し付けられた。
 しかし中央運転台で非常ドア、しかも車いすの利用を考慮して開口幅880㎜以上を確保するとなると、車体幅2,200㎜の電車ではなかなか難しい。結局運転台をフライ・バイ・ワイヤとして非常時は運転台ごとドアを開けるという方法に落ち着いた。これはコンピュータの発達で機器が小型・軽量化した琴で可能となったデザインといえよう。

非常ドアを展開した姿。扉に張りついているのが運転台ユニット。コンソールは極力簡易化されている。なお、この画像は訓練の際に撮影したものでヒンジがゆがまないよう扉の下に脚立を置いて荷重を分散しているのがわかる。

 したがって運転台の機器はマスコンハンドルやレバーサといった操作系以外は極力2面のLCDモニタに集約し、必要のない情報は積極的に見せないというデザインでまとめている。非常の際は運転台ごと前面に蹴飛ばし、95度までドアを開けたら普段は通路になっている渡し板を前方に引き出し、「滑り台」を構成する。これによって側面のクリアランス200㎜という狭い断面のトンネルの運用を可能としている。なお、非常ドアのヒンジと窓枠は、自らの質量を単体で支えるようにはできていないため、1回使用したらヒンジから全とっかえの使い捨てとなる。もっとも、緊急脱出が必要な非常事態が起きたら車両の再使用そのものが不可能となる可能性も高いわけで、ここは割り切って軽量化したほうがベネフィットが大きいという判断がなされている。
 車体コンタもこの断面内で最大の幅を取ることを考え、楽園軌道では最大となる2200㎜幅となった。幅が広がるとそれだけバランスが悪くなるが、トンネル内は高速で走ることによって側面に空気の境界層を作り、これを空気ばねとして活用することで安定を保っている。逆に言うと高速運転はトンネル内に限られている。
 正面のスタイルもそれを考慮したもので、前面端を面取りしてディフューザと同じ効果を発揮させ、後方に積極的に空気を吸いだす構造となっている。まさか762㎜ゲージの電車で新幹線のような空力理論を導入するとは思わなかったが、断面比で考えれば新幹線の理論は軽便車両にも有効なのである。
 500形の車体構成はリトルダンサーA3なので、両端の車両がみこしを担ぐように中間車体を支えている。そのため両端の車両に機器を集約し、中間車体は極力軽くする必要がある。
 そのため中間車体はアルミで製造し鋼体質量を3.1tまで軽量化している。アルミの場合衝突後の塑性変形が致命的だが、路面電車において側面から何かがぶつかるリスクは正面のそれより小さいため、割り切った。
 両端車はt2.4の鋼鉄製。床上はほとんど機器でいっぱいとなっており、VVVF装置、起動装置、SIV、冷房などを適宜分散して配置している。軽便鉄道において500形が成立したのはコンピュータによる機器の集約化・小型化によるところが大きい。520形の時代ではダイレクトコントローラしか選べなかったが、SiC-VVVFの登場でインバータ制御が採用できたように。
 コントローラはフルSiCのVVVFインバータで1C1M×4モジュール。これでシンクロナスモータのMB-7050AN(6極・440V・116A・5.800rpm・1,200㎏)をギアリング97:16(6.06)で駆動する。6極シンクロナスモータの高効率から生み出される高回転を、浅いギアリングでトルクに変換するセッティングと考えてもらえばおおむねイメージがつかめる。この時の起動トルクは4,800㎏あり、116A起動だと加速力が6㎞/h/sにもなってしまうが、起動時は電流を抑制し、2,400㎏相当(3.5㎞/h/s)で起動する。
 ではこのオーバースペックは何かというと、トンネル内での空気抵抗に打ち勝つためと、520形などと連結した際MT運転を行う(詳細は520形の項を参照)ためだ。電気連結器の1番と56番が短絡すると起動電流を116Aとしてフルロードでの加速が行われる、というわけだ。この時の加速力が3.3㎞/h/sとなり、まあ妥当な数字となる。

台車の外についたモータ(右側の円筒形と四角の冷却ファンが見える)から、前の車輪にスパイラルベベルギアで伝達する台車。回転部分が外側にあるため、営業中は巻き込み防止のカバをしている。

 なお、駆動方式は直角カルダン駆動。ナローゲージ車輪間にモータを収めることはできないが、モータの極端な小型化により台車外側からユニバーサルジョイントとスパイラルベベルギアで動力を伝達することが可能となった。スパイラルベベルギアの特性である、トルクのかからないときの静粛性は500形でも存分に味わえる。
 ブレーキはMBS純電気ブレーキを採用。軽量化のためにエアレスとし、非常ブレーキは油圧で車軸のディスクを締め付ける方式となっている。それゆえに非常ブレーキに限ってはたいへん荒っぽい制動となるが通常はまず使わないので問題はない。
 このようにハイテクと空力理論をてんこ盛りにして造られた結果車両価格は1両3億円を超える結果となり、60人しか乗れない電車においてこの価格はいかがなものかと市議会において問題となった。とはいえ空港から桟橋まで17分で結ぶ高性能はこの車両なしではなしえず、そもそも建設費をケチったことが間違いのもとなのだから責任はないと市は突っぱねたので問題はないのだろう。また、空港利用客が予想以上に伸びた結果、単車の500形では旅客を輸送しきれない事態になったことも追い風となっているのは間違いない。そりゃあそうだ。自動車だと50分近くかかる空港までの道のりを電車は17分で走るのだから。
 とはいえ市議会では空港アクセスに必要な6両以上の製造は認められず、東線・西線用には低価格の低床車を別途企画しなくてはならない事態となってしまったのは残念だ。

トンネル内の信号所で交換する500形。対向車と壁の間隔からもトンネル断面ギリギリの大きさであることがわかる。
dan564@gmail.com /サマンサのTumblr
サマンサ 2018

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