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■ひたすら粘着…1200形・1230型


 1000形、1100形を順調に製造し、七夕豪雨の傷跡も言えてきた駿遠急行だったが、1982年の国鉄ダイヤ改正は病み上がりの駿遠急行を叩きのめすに十分なものだった。
 静岡エリアの普通電車を15分ヘッドで運行する〈するがシャトル〉の運行は、これまで運転頻度の高さを売りにしてきた駿遠急行のお株を奪うものであり、駿遠急行としても対抗策を講じなければならなかった。しかし、国鉄は当時静岡~島田間の駅数が5駅なのに対し、駿遠急行は路面電車上がりの悲しさで34駅もある。いくら特急がシャカリキに走っても、先行する普通電車に追い付いてしまってはスピードアップはままならない。
 そこで駿遠急行は、普通電車に特化した性能の車両を製造し、限られた待避線まで素早く逃げ切るようなダイヤを組むことに決め、3年内に2両つなぎ13本の製造を決定した。これが1200形・1230型だ。形式が別れているのは制御方式の違いで区分しているだけで、正式には1200形1230番台となる。
 基本仕様は1100形に倣い、台車はミンデン台車で普通鋼製の18m3ドア。それに防水対策を施したユニット式の一段加工窓を採用し、すっきりした見付としている。
 冷房装置も1100形同様12,000Kcalのものを3台搭載。1台当たり2ユニット構成で弱冷運転は2ユニット中1ユニットの未作動させることで行う。時期が時期だけにサーモスタットはなく、切・弱冷・強冷の3段階切り替えとなっている。また、価格面で折り合いがつかなかったためラインデリアは装備されていない。
 正面形状は1100形の不評をもとに、増解結を行わない普通電車専用と割り切って非常扉をオフセットして視界を確保。列車風対策は正面をV字型に3度折り曲げたほか、左右隅柱を面取りして空気を逃がす構造としている。
 1200形は普通電車専用として加速性能だけを追求したデザインで、最高速度も100km/hと割りきっている。そのかわり起動から34km/hまでの加速力は4.5km/h/s、90km/hまで平均3.0km/h/sを維持するようなトルクと粘着性能を持たせるべく開発された。
 1983年に登場した1200形4編成は、シリースモータの抵抗制御で登場。モータ出力こそMB-3058D(90Kw)だが、その代わり全軸を駆動させトルクを確保。8モータで合計11,600kgのトルクを発生させ、これをギアリング7.07(99:14)という(シリースモータ車としては)ピーキーともいえるセッティングで回す。質量は2両で68tなので、トン当たり出力も10.5kwとべらぼうに高く、あとは適切に出力を制御できれば最高の高加速車になる。「適切」ならね。


▲床下にずらりと並んだ抵抗器。ギアリングを7.07と深く取ってさらにバーニアを挟んで電流の階段を小さくして高加速を獲得したものの、発電ブレーキの際に大電流が流れてアークシュートによる接点溶着といったトラブルも多発した。

 コントはABFM-098-15MDH。バーニアを噛ませて直列・並列各24段、弱め界磁4段の多段制御車となった。これにより電流の階段が滑らかとなり、低速から安心して大電流をかけられるようになった。しかし大電流をかけるということはコントの接点に負荷をかけるのとイコールである。結果1200形は終始このトラブルに悩まされることとなる。
 ブレーキは当然発電ブレーキを装備しているが、地下線では発電ブレーキの使用が禁止されているので、弥勒駅で電制スイッチを「切」にしなくてはならない。当時は弥勒駅の手信号現示位置に大きな看板で「電制切」と書いてあった。そのくらい切り忘れが発生するのだろう。

▲弥勒駅に掲げられた「電制切」の看板。そうでなくても高速からの発電ブレーキは電圧900V、電流450Aとかかかるので抵抗器の発熱も半端なかったのだ。旅客の不快感などどうでもいいが、機器が蒸し焼きになるのはいかんともしがたいのだ。

 ブレーキに関してはうっかりHSC-Dを採用してしまったことが悔やまれてならない。HSC-Dの制動力はたしかに強力で安定しているのだが、かかり始めの空走時間2秒は普通電車運用において思いのほか長かった。なんせこの2秒で75m走ってしまうのだ。そして常用最大で一気に止めようとすると粘着に負けてスキッドするケースが多く、運転士の中には最初から電制を殺して運転するものもいた。これはこれで雨の降り始めに地獄を見るのだが。
 1200形は2両つなぎでかつ冷房を載せる関係で艤装が苦しくコントは1コントにせざるを得なかった。1C8Mである。これが大手私鉄の長編成なら問題ないのだが、悲しいかな駿遠急行はローカル民鉄の2両つなぎ。編成内1コントでは泣くに泣けない。「適切」の2文字が高加速ではるか彼方にすっ飛んでいくのが目に見えてしまう。
 それでもまあ1C8Mなら直並列制御もかけられるし、バーニアをかまして低速域のトルク変動を抑えることだってできる。しかし大トルクモータの代償はすさまじいアークシュートによる接点の汚損という代償を得なければならない。それはそうだ。トルクとはなんだ。端子電圧の上限が決まっているDCシリースモータに限って言えばトルクすなわち電流だ。大電流がカムの接点にかかってそれを断流するのだから、アークが出ないわけがない。制御段数が増えれば増えるほどアークシュートの確率は上がっていく。
 それを見越して全軸駆動の低出力モータにしたものの、限流値280Aでも満車時は400Aに届く勢いの電流が必要となるため、接点の荒れ方は半端なかったそうだ。
 現実問題人的リソースが不足気味の駿遠急行にとって、1200形は「手のかかる」クルマだった。そのため1200形は4編成を造った段階でいったんシステムを見直すこととした。

■納得の接点荒れ…1230型

 性能面では文句のない1200形だったが、保守面では問題が多いためこのあたりの解決方法を三菱電機に泣きついたところ、界磁チョッパ制御を勧められた。
 そこで足回りを界磁チョッパ制御にして1983年から製造を再開したのが1230型となる。すでに「するがシャトル」の運行は始まっており、旅客が国鉄に逸走しているという報告もある中での決定だった。

▲1230型では界磁チョッパ制御を採用。バーニアもやめてコントをシンプルに。コントの接点さえ荒れなければカーボンブラシなんぞナンボでも取り換えたるわ! と開き直ったデザインになっている。

 コントはCFM-108-15MHR。1C8Mなのは1200形と変わらないが、CFMの型番が示す通り界磁チョッパ制御となる。始動の抵抗段はあっさり割り切って直列/並列各12段でバーニアもなし。ギアリングは1200形よりも若干浅めの6.07だが、制御段は40㎞/hで終了し、早々に弱め界磁制御に入ってしまう。ここからが1230型の本領で、67Aの制御電流をチョップして逆起電力を制御し、最終的に0Aに持っていって惰性走行をする。このときシリースモータと異なり断流をしないのでノッチオフの衝動もなければアークシュートも起こらない。
 さらにここから逆方向に電流を流せばブレーキになるため、特に静止時のスキッドをほぼ完璧に抑えられ、加えて界磁電流を調整するので昇圧チョッパと異なり高速域での回生絞りこみはよほど架線電圧が上昇していない限り起こらない。
 ただし弱め界磁時に急激な電圧変動が発生すると、トータルの出力を保つため界磁電流が一時的に大きくなる。大電流すなわちアークシュートの発生になるのだが、界磁チョッパの場合アークシュートの発生はモータのカーボンブラシであり、コントの接点に比べれば対策は容易だ。カーボンブラシの荒損が即運転不能につながるわけではないしカーボンブラシ自体の交換は容易だ。これがシリースモータの場合、コントのアークシュート発生による接点の解放不能というクリチカルな事態に陥る。すくなくとも駿遠急行では接点溶着は前途運転中止の措置が取られる。そう考えればカーボンブラシの荒損くらい「笑って許せる」レベルと言えるわけだ。

▲1200形のデザインを1から見直した結果、1230型は駿遠急行が求める理想的な普通電車の性能を獲得できた。

 モータはMB-3043-AC。絶縁強化の上出力は100kwに向上している。トルク自体は11,000kgもあれば十分なのだが、高速域からの回生ブレーキに対する容量の余裕ととらえてくれればいいだろう。端子電圧ながら900V耐圧を保証しているため、回生ブレーキも100km/hから有効にかけられるというものだ。そしてこの余裕を利用してギアリングも1200形よりも二段下げて6.07(78:14)として、界磁チョッパ制御のウイークポイントである起動時の安定性を増している。
 このようなシステムの再検討により1C8M制御としては無謀と言わざるを得ない減速力5.0km/h/sという強力なブレーキも、100km/hから逆起電力を徐々に強めるチョッパが使えるのでスキッドをほぼ完璧に追放。停車位置まで残り280mから一発ブレーキで安心して突っ込めると運転士の評判は上々だ。もちろんブレーキは0A制御をおこなうにあたって最適なブレーキであるMBS-R電気指令式。ついでに弱め界磁段であればカムを逆転する必要がないのでノッチバックが使えるが、勾配らしい勾配もなく駅間距離が1km程度の普通電車限定運用で、果たしてノッチバックを使う機会なんてあるのだろうか……。
 そして制御段に入ったら回生ブレーキが落ちるが、失効速度は25km/hなのでそこからは空気ブレーキによる停止でも何ら問題ない。この回生ブレーキこそが1コントのリスクを負ってでも1C8Mにしたかった最たる点だ。仮に1C4Mの2コントでシステムを組んだ場合、加速はまあバーニアをかませばなんとかなる。しかし回生ブレーキの失効速度が45km/h以上となり普通電車用としては使い物にならない。750Vモータなら直並列制御が使えるが、ただでさえブラシが荒れるコンパウンドモータで750Vモータなんて使うのはあまり好ましくないことは想像つくだろう。
 とにもかくにもこれで忌々しかった地下線の電制禁止措置からも解放されるとあって運転士はとても喜んだと当時の社内報には書いてある。もっともこれまでの癖でうっかり弥勒駅で回生を殺してしまうこともあったそうだが。
 1200形の見込み違いを改善した1230型は乗務員にも受け入れられ、普通電車の主力として9編成が製造され、現在も活躍中だ。しかし界磁チョッパ装置および界磁調整器のサポートが切れたため今後は新型車両に置き換えていくことになる。
 とりあえずは2016年に新造車2100形を3編成製造し3編成を廃車。捻出パーツは共食い整備用の交換部品として確保。残り6編成が普通電車用として活躍している。
 一方で1200形は1230型ともども普通電車に使われていたものの、1992年に代替用の普通専用車1700形を製造して普通運用から外し、うち3編成は廃車となった1000形のMB-3064モータに換装して1100形に編入された。しかしこちらも1800形に代替されてすべて廃車となった(詳細は1100形の項目を参照)
 残り1編成は1000形のコントとモータを流用して1250型に改番。支線用の車両として活用中だ(詳細は1250型の項目を参照)。


▲トラブルの多いコントとモータを1000形ものに換装し、支線用に転用した1250型。1200形のようなピーキーさはないが、安定した性能でたいへん使いやすい。
サマンサ 2019
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