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■新機軸てんこ盛り
 藤岡団地駅から分岐する団地線は開業の経緯から、本線より直角に分岐する構造となっている。そのため本線と団地線のアプローチ線はR=80mという急カーブになっている。
 なんで標準軌なのにこんな急カーブに…と嘆きたくなるが、当時の駿遠急行は15m級の小型車中心。それゆえにR=80mでも特に問題なく曲がれたのだ。
 現在の18m級台車間距離12000mm(2000形は12200mm)では、15㎞/hの速度制限がかかるうえ、枕ばねが横方向の剛性も担うボルスタレス台車では復元力が過大となりせり上がり脱線の危険があるため、団地線への入線を自粛している(ボルスタアンカ装備のボルスタ付き台車であれば、枕ばねは台車枠とボルスタ、もしくは車体とボルスタに拘束され上下方向への変位のみしかしない)。
 そのため団地線への入線はボルスタ付き台車の1100形・1300形に限定されていたが、1100形を置き換える段においてボルスタ付き台車の新車を製造する必要が発生した。そこでどうせならより曲線通過性能に優れた台車を装備してみようということで企画されたのが1800形となる。
 1800形のキモは住友金属(現新日鐵住金)謹製SS900台車。このいかにも試作品でございという台車は、台車のうち片軸を操舵し、アタック角を減少させるのが狙いだ。しかし一方で操舵台車がゆえに特殊な部品を多用するようでは製造コストおよびメインテナンスコストとして引き合わない。なのでできうる限り汎用品を活用できるデザインでなければ中小民鉄の駿遠急行では受け入れることはできないわけだ。
 SS900台車はその点も留意した結果、完全自己操舵台車という「理想」はあっさり放棄し、いうなれば「半自己操舵台車」といった位置づけ、具体的にはボルスタの下で車体の片側は固定、片側のみが可動梃子を介して可動する仕掛けになっている。
 台車が曲線に突入する際。前寄りの車輪にアタック角がかかり横圧が発生するのは感覚的にわかってもらえると思う。自己操舵台車はこのときその曲線を感知して曲線方向にラジアルする。
 このとき半自己操舵台車では片方の軸がパッシブになるわけだが、結局アタック角を減少させるということは何か、という問題に立ち返ったとき、内側と外側の軸距を違えることであると考えれば、片方はパッシブでも一向にかまわないことになる。
 たとえばパッシブな軸側から曲線に入ると、車輪が極点抵抗を受けて外側に力がかかる。だけどアクティブ軸とはリンクを介してつながってるわけで、このリンクが力を受けてクネっと曲がり、内側のホイールベースが短くなる。車輪にはテーパーがついているのでこのテーパーが斜めに転がることでリンクが動くわけだ。
 そして外側と内側で軸距がかわったならば、アタック角のベクトルはレールと平行に向くことになる。よって操舵がうまくいくわけだ。
 この半自己操舵方式の利点は、固定軸側はこれまでのパッシブな台車と同じ部品が使える点だ。モータはパッシブ車同じ台車装荷方式が使えるし、駆動方式もWNドライブがそのまま使える。ブレーキは軸距がかわる以上踏面ブレーキは使えないため、駆動軸側に1枚、操舵軸側に2枚のディスクブレーキを装備している。
 ディスクブレーキ化によってばね下質量が大きくなるのは不本意だったので、かわり軸距をこれまでの2,000mmから1,900mmに短縮した。標準軌だから蛇行動の発生速度は多少遅くなるとは言え、これには住金も苦笑いといったところだった。「駿急さんは相変わらずチャレンジャーですねえ」と嫌味のひとつもそら言いたくなるだろう。
 とはいえ、駿遠急行にも言い分はある。1800形のSS900台車はダイレクトマウント台車だ。ダイレクトマウント台車は車体とボルスタを拘束して空気ばねの変位を押さえる構造。旋回は台車枠とボルスタの摩擦力で行うわけだが、これが急カーブになると車体とボルスタを結ぶボルスタアンカがつっかえ棒となって回転半径を制限してしまう。
 つまり、つっかえ棒にならないようボルスタアンカを極力短くする必要があり、そのためには軸距の短縮が効果的というわけだ。これがインダイレクトマウント台車であれば台車枠とボルスタを拘束し、車体はフリーとなる。つまりボルスタが拘束されず台車全体が旋回できるので急カーブの通過ではインダイレクトマウント台車が有利なのだ。駿遠急行は路面電車も運営しているので、体感的にこのことを知っていた。団地線に入線する電車にインダイレクトマウント台車を最後まで残した理由もこの点を重視していたからだ。
 とはいえ、今更インダイレクトマウント台車……というメーカーの言い分もまたごもっともで、この規格外カーブのために駿遠急行はいらぬ摩擦をメーカーとの間に抱えてしまっているのだ。まったく急カーブはいろんな摩擦が問題になるのだ。
 
▲自己操舵台車を履く1800形。ボルスタアンカ左側にリンク機構が見えるが、ここでホイールベースを調整する。軸距1900mmは蛇行動を起こさないぎりぎりの幅を狙って軽量化を図っている。

 もちろん一応200㎞/hの蛇行動限界速度はクリアしているので駿遠急行の110㎞/h運転に支障はないが、蛇行動を誘発するようなセッティングはどうにも感心できない。軸距を100mm詰めてなしえた軽量化なんてせいぜい300kg程度だ。最高速度120㎞/hの路線でそこまでシビアな軽量化が必要なのかははなはだ疑問だ。そのためかどうか1800形は120㎞/h対応にはなっていない。
 さて、SS900台車ではアクティブ軸にモータを装備するわけにはいかないため、1台車1モータとなる。つまりすべての台車にモータを装備しても2M2T相当のMT比となる。モータは出力180kwのMB-5070。定格電流も121A/60Hzとして加速性能と高速性能を「てきとうに」バランス。ギアリングは98:15(=6.53)で1600形より一段深く取っているが、これは1600形に比べ質量が重くなった分の補償となっている。1600形は120㎞/h運転も視野に入れていたので6.06のギアリングが必要だったが、1800形は快速用として110㎞/hでよいとした。つまり77㎞/hの段階で1,200kgもトルクがあればいいという割り切りだ。
 コントはMAP-184-15VR。1C4M×2コントとしている。これまでコントとモータ数の関係はいろいろ試行錯誤してきたが、結局コストと性能の兼ね合いを考えたとき、4両つなぎでは2コントがいちばんよろしいという結論に達した。
 1800形では1台車1モータなので、2両分のモータを1台のコントで制御することになる。半自己操舵台車の機構上先頭車のモータのさらにいちばん前の車軸にモータが来てしまう不利があり、いかに並列接続のVVVFインバータとはいえ適切なトルク制御という点では不利になる。少なくとも駿遠急行ではトルク管理の観点から先頭台車の先頭車軸にモータをぶら下げるのは好ましくないとしている。
 かといって高速運転の手前、モータ数をこれ以上減らすのも容認できないところだ。仕方がないのでVVVFのソフトウェアでなんとかするほかない。幸いにもこのころはIGBTが実用化しているのでスイッチング周波数を750Hzにとって微小空転を管理することで対処することにした。空転すなわちトルクの階段で回転が過大になることなので、その階段を極力滑らかにする、すなわち非同期モードの領域においてスイッチング周波数を上げることこそを微小空転から大空転に移行することを阻止する何よりの解決法となる。
 また、コンピュータの処理速度向上も事象におけるフィードバック制御の向上として大いに寄与している。1800形の時点では空転に備えたフィードフォワード制御は取り入れていないが、実用的にはフィードバックの制御で十分事足りている。
 また、台車の機構上ブレーキはディスクブレーキなので踏面ブレーキのように車輪表面が磨かれることもない。ゆえに現在のところそこまで顕在化したトルクアンバランスは発生していない、ということだ。
 ブレーキはT車軸遅れ込みブレーキ(なんとも締まらない言い回しだがそういわざるを得ない)で、通常は8モータの回生ブレーキで賄う。せっかく無理して装備してディスクブレーキも通常はほとんど使わないただの錘、しかもばね下質量となる厄介な錘だが、現行法の元ではどうしようもない。鉄道会社が「通常は電気ブレーキで止まるので空気ブレーキはいりません。電気ブレーキがフェイルしたら直ちに保険金の計算をしますので問題ありません」という無責任は許されないし許されてはいけないだろう。たぶん。
 エアは駿遠急行初のMBUスクロールコンプレッサを採用。エアの供給量自体もT車軸遅れ込めブレーキの採用やリニアモータのドアなどで減少しているため、編成内一基で賄うことが性能上は可能。もっともこのままではCP故障即前途運転不能になってしまうため、結局DH-25を1台予備として吊っている。いったいいつ造ったCPかわからないが、普段使いしない、半ば「お守り」のようなCPにそうそうお金もかけられまい。


▲第1編成(上)と第2編成(下)で正面形状が微妙に異なる。「地獄に落ちるべき」担当者は上方のコンタが気に食わなかったようだ。なお、この1800形を最後に東急車輛(総合車両製作所)との長い関係が切れたのは単なる偶然である、と思いたい。

■さようなら東急車輛  運転台の形状は1600形で提案された乗務員保護の概念をさらに進めている。乗用車の車高はおおむね1400mm前後なので、床上1000mmm~1300mmのところにダンパを装備。そのままスカートと一緒に乗用車を前に押し出し、乗用車を引きずるエネルギで衝撃を緩和する。
 トラックの場合はちょうどこのあたりが重心位置となるため、トラックが足元をすくわれて横転する危険性があるが、むしろ積極的に横転させることで地面との接触面積を増やし、エネルギ吸収を早める考え方に基づいている。
 とにもかくにも衝突後速やかにエネルギを逃がすことを優先しているため、電車乗務員のサバイバル性能は重視しているものの、自動車の乗員については「見捨てた」デザインとなっている。これに対して駿遠急行は「ダメだと思ったら積極的に自動車から脱出してほしい」とコメントしている。特に1800形は足回りが特注品で高価なのだ。人命の次に守るべきは電装品ということになるわけだ。
 車体は東急車輛が開発した軽量ステンレスボディ。デビュー当初は1700形同様赤帯が入っただけのスタイルだったが、2012年の2000形東上に合わせて現行のラッピングとなった。車内はロングシート。この形式から1号車と4号車に車いすスペースが設置され、ほかの車両にも順次設置されている。
 なお、1800形は2編成が運用されているが、1801編成と1803編成では顔つきが若干異なる。これは1801編成ロールアウトの際に駿遠急行の管理職が「なんかこう沈んだ顔でよろしくない。もう少しカーっとした顔にしてほしい」と意味不明な発言をしたため、1803編成ではできる範囲でリフトアップしたとのこと。まったく無駄な手数を踏ませたもので、当該の管理職はぜひとも地獄に落ちてほしいというのが車両メーカーと資材調達部の総意であろう。
 とにもかくにも1100形の置き換えとして2編成が投入され、半自己操舵機構も期待通りの性能を発揮している。だからと言って1300形の置き換えも1800形で行くのか? と言われると資材担当は首を横に振る。
 1800形は静粛性も高く走行性能も悪くないが、駿遠急行にここまで高級なシステムが必要か? という問いかけもやはりあるとのこと。1300形で問題がないのなら半自己操舵機構は必ずしも必要条件ではないのでは、というわけだ。
 あと数年もすれば1300形の置き換えが現実のものとなる。「解答」はそのときに見ればよいだろう。


▲藤岡団地のR=80mカーブにおいて5dbの騒音低減を達成した1800形。しかしその5dbのためにかかった投資とメインテナンス費用を考えたとき、それはコストに見合ったものなのかという疑問もまた残るのだ。
サマンサ 2019
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