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■界磁チョッパの代替に…2100形
 普通電車専用の高加速車1230型はシステムこそは界磁チョッパ制御と古いものの、100㎞/hからでも280mで停止できる強烈な減速性能や0A制御による滑らかな走りが乗務員にはたいへん好まれていた。性能的にも現在の駿遠急行にマッチしており、製造から35年経ってもなお矍鑠と活躍していた。
 しかし青天の霹靂がやってきた。
 三菱電機が界磁チョッパ装置および界磁接触器のメインテナンスを打ち切ると通告してきたのだ。
 もちろん三菱電機の事情も分かる。35年も前の半導体システムを維持するためのASSY管理コストや代替部品の手配などまったく労多くして実のない作業だ。現代ではもっと安価で高性能なシステムがあるのにいつまでも35年前のシステムにぶら下がるのはたしかに健全ではない。
 とはいえ、9編成ある1230型を一気に廃車するほどの予算もないので、とりあえず共食い整備用の予備部品を確保するために3編成を廃車することにした。当然廃車となった分は新造しなくてはならないため新形式を起こすことになった。これが2100形で、2016~2017年に3編成を投入した。
 正面形状は乗務員保護の見地に立った2000形のものをほぼそのまま流用。ただし2000形同様のアルミボディは高価なため、比較的安価なステンレスボディが近畿車輛から提案された。
 車体はSUS301Lでt2.0。駿遠急行では全面ラッピングが原則なので表面仕上げは特に行っていない。正面は2000型と同じアルミ削り出しで乗務員扉の所でボルト結合のうえ、コーキングしている。ラッピングに隠れてみえないが、乗務員扉の手前で思いっきりコーキングの跡が出ている。

コンタだけでなく側面の配置もわずかに異なる。ステンレス板の接合位置の関係で乗務員扉がアルミカーの2000形に比べ100mm後退。その分直後の窓幅が狭くなっている。

 走行システムは1700形をほぼ踏襲しているが、いまさらGTO-VVVFでもないのでコントはATR-H4110-RG649D。モータはTDK-6145。型番の通り1C4M制御で110kwモータ全軸駆動となっている。
 1700形が個別制御だったのに対し2100形は1C4Mとなったものの、ベクトル演算制御とコンピュータの高性能化で空転制御はたいへんきめの細かいものが可能となった現在、あえて個別制御を採用する理由はPMSMでも使わない限りないと言っていい。インバータ装置はSiCパワーモジュールを採用。従来のコントに比べ同じパワーなら4割以上も軽くなり、熱損失も減少している。

フルSiCのインバータ装置を2100形では採用。これまでのインバータ装置に比べ大きさで2/3になっている

 トルクは起動時で18,000kgもあれば十分なので電流値のセッティングもこれまで通り67Aで起動。定トルクモードでは電流量を調整しつつ45㎞/h程度まで4.5㎞/h/sを維持。定電圧モードも69㎞/hで終了し、あとはフリーランモードで100㎞/hまで引っ張る性能としている。100㎞/hまでの到達時間は約30秒。95㎞/hを超えたあたりから加速が苦しくなるため1700形に比べ若干ダルな加速力だがこれでも十分すぎる性能と言え、むしろ2100形で適正性能に落とした分カーボンスライダの摩耗防止にリソースを割いたセッティングとなっている。
 そのためギアリングも1700形より一段深く取った7.79(109:14)としており、最高速度を見切った分電流量の抑制を考慮したセッティングとなっている。このセッティングによって均衡速度は107㎞/hとなるため、普通電車以外の運用にはつけなくなった(1700形なら普通専用車とはいえ急行くらいの運転曲線にはなんとか乗ることができた)。

2100形は電流量抑制のため極端な低速セッティングを施しているため、普通電車以外の運用にはたとえ不定期列車でも載せることができない。

 1700形の壊れ性能から2100形の電流量抑制にかじを切ったのは、集電電流の増加によるスライダの摩耗および架線へのダメージが看過できないレベルとなったためだ。
 駿遠急行では架線へのダメージを考慮してパンタグラフのスライダに純カーボンスライダを採用しているが、カーボンスライダはメタルスライダに比べて集電容量が1/10しかない。抵抗が大きいということはその分熱となってしまうわけだが、走行中は走行風で冷却されるから問題ない。
 しかし駅停車中は架線とスライダの間に熱がこもり、架線が熱を持つ。昨今のエアサス・ボルスタレス台車では旅客が乗車するたびにLVがバランスを取るため微妙に左右に揺れる。熱でやわくなった架線に対して左右の摩擦力が働き、架線切断の大事故につながる危険があった。
 そのため駿遠急行ではパンタグラフの数を可能な限り増やして1パンタ当たりの負荷を下げているが、2100形ではさらにもう一歩考え方を進めて電流量そのものを抑制することにした。
 なお、このセッティングでは高速域で回転数を稼ぐ必要から74km/h以上の領域で1700形に比べ電流増となるが、先述の通り高速運転中は走行風でカーボンの温度上昇を抑制できるため、大電流を流しても問題ない。
 もたとえば停車中にかかる負荷の大部分はSIVによるものなので、停車中は床下に吊ったバッテリでSIVを駆動し、走行中に充電している。回生ブレーキによって発生した電力も充電に回すことによって、架線へのダメージを軽減するデザインとなっている。
 これらのバッテリは走行用に使うことは考慮されていないので140KVAのSIVを駆動するだけの容量があればいい。そのため出力は直流680V→三相交流440V/40Ahという小型のもので、質量も約700kgとなっている。当然非常走行には対応していない(回路がそのように設計されていない)が、駿遠急行では列車がどの地点に止まっても最大で900m歩けば駅に到達できる(最も長い駅間は赤目ヶ池公園~坂下の1.8km)ため、非常走行設備の装備は考慮していない。
 現在2100形は3編成が運用されているが、今後毎年1~2編成投入して1230型を置き換える計画となっている。

SIVの動作用に搭載したリチウムイオンバッテリ。そうまでして架線のダメージを小さくする必要があるのかと思うかもしれないが、あるのだ


2000形(左)と2100形(右)。今後はこのスタイルが駿遠急行の標準となる予定だ。
サマンサ 2019
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