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 aboutラブ電

 社長インタビュー
 
 
 
 
 
 
 
 

特集 泉州地方のローカル私鉄 
愛野電鉄社長 藤原慎一郎に聞く 

−利用客は2002年をピークに減少傾向ですね。 

 「愛野地区が脚光を浴びたのはいいのですが、それに伴い愛野ヒルパイクができまして、それによって上向いていた鉄道利用客が一気に2割減りました。これはたいへんだということで、快速電車を2004年から運転開始しました。ほとんどランカーブいっぱいいっぱいに設定し、茶屋宿−愛野高原を19分で結んでいます。それまで各駅停車で27分かかっていましたから、インパクトはそれなりにあったようです。花月急行時代のお金がかかった路盤に助けられました。これがほかの中小私鉄レベルの路盤でしたら20分を切るのはまず無理だったと思います」 

−ラブ電は地方私鉄とはいっても、99年までは大手私鉄の一員だったわけですから、車両や設備はかなり高品質なものを使っておられますね。速度照査式のATSでも特に安全性の高いものを導入していらっしゃいます。 

 「ええ。当社は単線区間もあり、最大で74パーミルの急勾配を有している関係で、安全性にはことのほか神経を使っています。ATSはおっしゃるとおり、速度照査式のものでもかなり高機能なものを使用しており、線形情報と車両情報を常に比較しながら速度照査を行うシステムを導入しています。大手私鉄でもこれほどのシステムを持っているところはなかなかありません。花月急行から分離する際、60キロレールと速度照査式ATSをそのまま継承できたことはたいへんありがたい。今のラブ電にはそんな余裕はありませんから」 

−輸送力は区間別にしてみるとどのくらいの違いがあるのでしょうか 

 「輸送割合はは茶屋宿−追分が35%、追分−愛野が20%、愛野−登山口が20%、七瀬線が残りという感じです。輸送密度は全線で3326人。シーズンによっての浮沈が激しく、7月8月やゴールデンウイークは乗車効率が100%を超えますが、2月は35%以下まで落ちます。ゴールデンコースは冬季閉鎖しますが、温泉は通年沸いていますので、冬季の観光需要をいかに掘り起こすかが課題となっています。 

−定期外客の割合が77%ってのはすごいですね。 

 「ラブ電は観光鉄道ですから。たしかに通勤・通学需要は茶屋宿−追分などにないわけではないのですが、それに依存できるほどのボリュームがないんです。ラッシュにしても、日中のダイヤに2本程度足して、ロングシートの電車を要注意列車に投入すればさばけてしまう程度でしかないんですね。 
 ですからいきおい観光に注力するしかない。でも、観光ってことはお客様に『愛野に行きたい』って気持ちを起こさせなければだめなんです。当社は遊園地も経営していますが、たとえば新しいアトラクションを導入しますとお客様は確かに増えます。しかし、半年もすると落ち着いてしまうんです。アトラクションの更新は相応にお金がかかりますが、元を取るまでにその効果が持続しないんです」 

−移り気な観光客をつなぎとめるには、相応の投資が必要なわけですね。しかしそれを一事業者として行うにはたいへんでしょう。 

 「そんなときに思いついたのが、思い出なんです。思い出というアトラクションはいつまでも褪せることがない。それどころか時とともに魅力的に輝いていきます。であればラブ電は、お客様の思い出作りの場として愛野地区を盛り上げていこう。しかも一人だけでなく、カップルや夫婦で思い出を作ってもらいたい。そうすればそのカップルが子供を産んで、またその子供が思い出を作りに愛野へきてくれるかもしれない。最初は苦肉の策で始めた営業政策ですが、地道にメディアにアピールしてきた結果、愛野は愛をはぐくむ町という認識が定着してきました。 
 カップルや夫婦で観光にいらしていただきますと2人分の運賃が見込めますので、当社としてはたいへんな上客なのです(笑)。たとえば花蓮までの往復運賃は、2人で8000円にもなります。さらにホテルなどにも泊まっていただければ、カップルが愛野地区に1万円以上のお金を落としていただけます。このように二人が幸せになれば当社も愛野地区も幸せになれるシステムですから(笑)、二人の恋路は全社的に応援しなくてはなりません」 

−少子化を嘆くのではなく、子供をたくさん作ってもらって利用客増を目指そうと発言したのもそのころでしたっけ(笑)。

 「あの発言は、大風呂敷にもほどがあると各方面からお叱りを受けました(笑)。とはいえやはりわれわれとしては、いい思い出を愛野で作っていただきたいわけですから、余計なお世話と言われても、恋愛がうまくいってもらいたいのです。カップルがうまくして結婚していただければ、また愛野に来てもらえるかもしれませんが、愛野で気まずい思いをして分かれられでもしたら、二度と来てもらえません。失恋はわれわれの機会損失なんですよ(笑)」 

−メディアへの呼びかけや、社長自らがピエロ役になって、愛野地区を認知させたというわけですか。 

 「お客様をお金をかけずにつなぎとめるアトラクションがなくてはラブ電はやっていけない。花月急行から三行半を突きつけられるまでは正直、大手私鉄というぬるま湯にいたわけです。花月急行時代は『別に愛野線で採算が取れなくても本線でとればいい』みたいな考えがあったのは否定できません。 
 しかし、99年4月からはその愛野線だけで利益を出さなくてはいけない。欠損補助を国や自治体に求めることも不可能ではないでしょうが、きょうびやることもやらないではいそうですかとお金を出してくれるような時代ではないです。48両の電車と40キロの路線で利益を出さなくてはならない」 

−自治体にも欠損補助できるほどの体力は、いまや持ち合わせていませんからね。 

 「そのような危機感から全社一丸で取り組んだ結果、平成16年度は営業係数98くらい…お客様には36キロの路線距離で2000円という高額な運賃をご負担いただいていますが…にまで持ってこれて、単年度ではありますが黒字を達成できたわけです。しかし、今度はこれを維持するのがたいへんです。観光は飽きられたらおしまいですから」 

−恋愛という甘いイメージの裏には、並々ならぬ苦労があったわけですか。

 「われわれ人間は、一人1個の脳みそと1セットの体をを持っています。お金がなければこれらを使うしかない。夏になれば保守要員が八瀬の簗で釣り大会を開いたり、電車の本数が半減する冬季は、乗務員が日本中を行脚して旅行商品を販売する。逆に繁忙期は、役員も現場に出て観光案内をします。営業は営業で、遠足や社会科見学にラブ電を使ってもらえるよう、学校行事などさまざまなイベントに手弁当でかかわっていく。そういった地道な積み重ねの上に、観光という華やかな部門があって、愛だの恋だの演出をして、何とかたどり着いた結果が営業係数98なんです。愛だの恋だの社員までが浮かれていてはだめなんです」 

−なるほど。

 「鉄道部門だけがどんなにがんばっても限界があります。花月急行時代の営業係数215という数字は、おのおのが自分の与えられた仕事だけやっていたら、ラブ電は維持できないということを如実に示しています。逆に言うと花月急行時代に比べ労働条件は悪くなっていますし、正直、社員の良心に依存している部分は否定できません。給与面でもあまりよい待遇が与えられないのも正直なところありますので、経営者としてはできるだけ仕事しやすい環境を整備することしかできません。まあ、できることはこれからも何でもやっていきますよ」 

−ありがとうございました。
 

愛野電鉄/サマンサ 2005
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